日本遺産とは「点の観光旅行」から「面のテーマ旅行」への転換
日本遺産とは何か?
「日本遺産」とは、地域の文化財や歴史的特徴を活かして日本の文化・伝統を語る“ストーリー”を文化庁が認定するもので平成27年に第1号として18件が認定されました。
日本遺産構想のきっかけは、日本で暮らしているイギリス人のデービッド・アトキンソン氏で、彼は日本の神社仏閣に何度も足を運んでいるうちに、「外観はすばらしいが、ただそれだけだ」と感じるようになったと言っています。
そして、もしその建立された経緯や今日に至る歴史などを知れば、それらの神社仏閣に対する興味がもっと深まったのにと残念に思ったそうです。
アトキンソン氏の所見は私も同感で、いくらその土地に歴史があり、伝統文化が息づいていても、それを知らなければ何の感動も得られません。
日本各地には国宝をはじめとする多くの価値のある文化財が残っていますが、これまでは国の文化財保護政策が優先され、先祖伝来のものを大切にする反面、鑑賞するには不便な状態でした。
しかし、日本遺産では、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の文化財群を、地域が主体となって総合的に整備・活用し、国内外にその魅力を戦略的に発信することにより、地域の活性化がを図れるようになったのです。
すなわち、文化財を保護するだけでなく、積極的に活用する時代を迎えたのです。
さらに、従来の個々の文化財を訪ねる「点の観光」から、文化財に関連したストーリーを探求する「面のテーマ旅行」への転換なのです。
日本遺産の「ストーリー」を旅するとは?
私はストーリーを設けて文化財を面としてアピールする「日本遺産」を契機に、文化財の素晴しさを改めて再認識できれば、日本人の意識も高まり、日本全体が元気になっていくのではないかと思います。
ストーリー(物語)にはそれを語る人、聴く人、あるいは読む人の心が入ってきます。
このストーリーに関するそれぞれの心が、その物語の土地に対する「想い」に繋がって初めてストーリーは旅となるのです。
「物語」はたとえそれがフィクションであっても、設定された舞台が実際に存在する場合も多く、その舞台を訪れて主人公の気持ちを考えるのも旅の楽しみです。
「鯖街道」の拠点である若狭小浜西組旭座でもお話ししましたが、従来の名所旧跡を訪ねる旅も、そこには土地の「物語(歴史)」があり、よって、旅とは「物語」を求める行為としても定義できるのではないでしょうか。
日本遺産と世界遺産との違い
世界遺産は1972年のユネスコ総会で採択された「世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)」に基づいて世界遺産リストに登録された、遺跡、景観、自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ物件のことで、移動が不可能な不動産やそれに準ずるものが対象です。
登録される物件は不動産、すなわち移動が不可能な土地や建造物に限られ、そのために例えば寺院が世界遺産になっている場合でも、その中に安置されている仏像などの美術品(動産・可動文化財)は原則的に世界遺産登録対象とはならないのです(奈良の大仏は例外)。
この世界遺産の限界が2003年の「無形文化遺産の保護に関する条約」に繋がるも、これは芸能、伝承、慣習などが対象でストーリー性は問われてはいません。
一方、日本遺産は地域の文化や伝統を物語る“ストーリー”であり、文化財を活用して日本の魅力を国内外に発信し、同時に地域の活性化を図る日本の事業なのです。
文化庁の日本遺産事業
2017年3月7日、文化庁は日本遺産国際フォーラムを主催し、この日本遺産の事業を国内外にアピールしました。
この日本遺産国際フォーラムでは
・宮田文化庁長官の挨拶に続いて
・デービッド・アトキンソン氏の基調講演
・海外からの留学生による日本遺産研究発表
・ロバート・キャンベル氏がモデレーターを務めるパネルディスカッション
が開催されました。
私はこのフォーラムに旅行業界を代表してパネラーとして参加しましたが、文化庁では2020年までに100の日本遺産登録を目指すと同時に日本の歴史的魅力や文化・伝統を世界に発信することに意欲的です。
すなわち、従来の文化財保護の立場から日本遺産を通じて歴史的文化財を積極的に活用し、ストーリーとして発信することによって世界観の創出と地域のブランド化を目指す方針です。
しかし、日本遺産の中にはわかりやすいストーリーもあれば、時代や文化、流通や大陸からの影響などあらゆる歴史的要素を紐付けて考察しなければ読み解けないストーリーもあります。
そこで、私は自身の国内・海外の旅行体験から、この日本遺産のストーリーを日本遺産旅行講座として分かり易くご紹介したいと思います。
日本遺産の楽しみ方
人類は誕生以来、物語(ストーリー)を通じて知恵や知識を身に付けて、文化を継承してきました。
神話や宗教もほとんどストーリーを通じて伝えられています。
人はデータや理論、実例等を学んでも忘れやすく、ストーリーに関するものは印象に残ります。
そこで、旅行先の風習や文化、さらにその土地の歴史、名物料理、美術工芸、建築およびその地に生きる人達の生活様式などをストーリーとして学べば、記憶にも残り、旅も楽しくなります。
私はKKベストセラーズ一個人『日本遺産を旅する2』の巻頭に旅の楽しみ方について紹介していますが、ストーリーへのアプローチに際し、時には歴史的人物や旧街道など別の角度から読み解く手法も必要です。
文化庁の「日本遺産パンフレット」には
「歴史の声に耳を傾けると その土地に物語が生まれる」
と記されています。
日本遺産のストーリーから広がる「豊かな世界観を追体験する」という、新たな試みこそ日本遺産の旅の楽しみ方です。
一般社団法人日本遺産普及協会と日本遺産検定
私は2023年、「日本遺産ストーリー」を通じて地域の魅力を国内外に発信する目的で、有志とともに一般社団法人日本遺産普及協会を立ち上げました。そして、協会では日本遺産ブランドの普及と日本各地の文化や伝統の普及・活用に資する目的で日本遺産検定を実施しています。
本検定は3級・2級・1級に分かれ、まずは3級(ベーシック)が開始されていますので、「日本遺産」をはじめ「日本文化」「日本史」「地域振興」に関心のある方は、下記の『日本遺産検定3級公式テキスト』(黒田尚嗣編著・一般社団法人日本遺産普及協会監修)を参考に受験していただければ幸です。お問合せ先・お申し込み先:一般社団法人日本遺産普及協会
平成芭蕉メッセージ ~「旅の質」が人生を変える
「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉がありますが、私にとって旅することは、一度限りの人生を最大限に楽しむための創造活動なのです。そして私は、人生を楽しむために必要な「心のときめき」は、「知恵を伴う旅」を通じて得られると考えています。
そこでこの度、私はその知恵を伴う日本遺産や世界遺産の旅を紹介しつつ、平成芭蕉独自の旅の楽しみ方とテーマ旅行に関する企画アイデアノート、さらに著者が松尾芭蕉の旅から学んだ旅行術について紹介した『平成芭蕉の旅指南 人生が変わるオススメの旅 旅の質が人生を決める』と題した本を出版しました。このブログと合わせてご一読いただければ幸です。
私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って日本遺産を旅しています。
この「平成芭蕉の日本遺産」は、単なる日本遺産登録地の紹介や旅情報の提供ではなく、「平成芭蕉」を自称する私が、実際に現地を訪れて、地元の人と交流し、私が感じたことや認定されたストーリー対する私自身の所見を述べた記録です。