長崎県野崎島に残るレンガ造りの旧野首教会
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産指定された12の遺産を巡ってきました。
これらの遺産は潜伏キリシタンが「潜伏」したきっかけや、信仰と共同体の維持のためにひそかに行っていた様々な試み、そして「信徒発見」以降の宣教師との接触により転機を迎え、「潜伏」が終わりを迎えるまでを表しています。
実際にお客様に解説しながら、私自身が感じたことは、潜伏キリシタンの人たちの目的意識の高さです。
特に今は無人島となった野崎島に残るレンガ造りの旧野首教会を訪ねると、当時の信徒たちの並々ならぬ意識の奥深さに感銘を受けます。
野崎島は江戸時代、長崎の外海から五島に渡った潜伏キリシタンが再移住して作られた集落で、その集落跡地には1908年、17戸の信者たちがキビナゴ漁などで資金を蓄え、鉄川与助氏の設計施工で建てられた立派なレンガ造りの教会だけが残っています。
私の言う「目的意識が高い」とは、「誰のためになぜ やっているのか?」ということを常に考えて行動することを意味します。
この「なぜ」を考えているかどうかで、得られる結果が異なってくるのです。
旧野首教会のレンガ造りと「レンガ職人の話」
この旧野首教会はレンガ造りの建物ですが、レンガ職人に関してこんな話があります。
レンガ職人が4人いました。
4人ともみんなレンガを積む作業をしています。
このレンガ職人に以下のように尋ねました。
「あなたはここで何をしているのですか?」
1人のレンガ職人はこう答えました。
「レンガを積んでいるのです」
レンガを積む作業をしているというそのままの回答です。
次に、同じ質問を2人目のレンガ職人に尋ねると、こう答えました。
「壁を作っているのです」
レンガを積むことによって何ができるか?について回答しています。
1人目のレンガ職人に比べるとレンガを積んでいる目的がより具体的になっています。
さらに、3人目のレンガ職人に尋ねると、こう答えました。
「教会を作っているのです」
レンガを積むことで最終的に作りたいものを明確に回答しています。
2人目のレンガ職人よりも成し遂げたいゴールがはっきり見えています。
そして、最後の4人目のレンガ職人に尋ねると、次のように答えました。
「人々の心を癒す安らぎの空間を作っているのです」
教会を作ってそれが誰のためにどんなふうに役立つのか?
というところまで見据えています。
潜伏キリシタンの目的意識の高さはレンガ職人に通ず
4人のレンガ職人の考え方をまとめると、
1人目のレンガ職人 ⇒レンガをただ積むだけの作業だと思っている。
2人目のレンガ職人⇒レンガを積んで壁を作るという目先の目的が見えている。
3人目のレンガ職人⇒レンガを積んで教会を作るという最終的に作りたいものが見えている。
4人目のレンガ職人⇒レンガを積んで教会を作りその教会が誰にどう役立つのかまで考えている。
やっていることは全員同じレンガを積むという作業です。
しかし、回答が全員違いました。
その回答内容でレンガ職人の「目的意識の高さ」がわかると思います。
さて、どのレンガ職人が作ったものが最も人の役に立つのでしょうか?
この旧野首教会を立てた信者たちは皆、4人目のレンガ職人の意識を持っていたのです。
同じ作業でも、目的を明確にして「何のためにやっているか?」 を意識しているかどうかで出来上がるものが大きく変わってきます。
私は潜伏キリシタンの人たちは、行動一つ一つに目的意識を高く持っていたからこそ、信仰を維持することができ、今日、世界遺産として認定されたのだと思います。
私にとっては普段、何気なくやっている案内業務でお客様にどんな価値を提供できるかについて、再度、見つめ直す良い機会となりました。
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