「鳥羽・志摩の海女文化」日本遺産ガイド養成講座実地研修
2021年1月19日、私は三重県の日本遺産「海女に出逢えるまち 鳥羽・志摩〜素潜り漁に生きる女性たち」の日本遺産ガイド実地研修に講師として同行しました。
行程は午前中、伊勢神宮へのアワビの御贄所(みにえどころ)として知られている鳥羽の国崎(くざき)の海士潜女(あまかずきめ)神社参拝、海女小屋体験施設の「さとうみ庵」で昼食を取った後、午後は志摩の御座に鎮座する爪切不動尊と石仏(潮仏)、そして御田植え祭で知られる伊雑宮を巡りました。
国崎では熨斗あわび文化保存会の世古会長にご案内いただきました。国崎は志摩の国の最東端に位置するため、国の先という意味で国崎という地名が生まれたと言われており、朝廷に献上する海産物の産地であったことから昔は国崎神戸(かんべ)と呼ばれていました。神戸とは、御贄(みにえ)を神宮へ献上する土地のことです。
『倭姫命世記』によると、倭姫命(やまとひめのみこと)が天照大神に供える御贄を求めて国崎の鎧崎を訪れた際、海女「おべん」からアワビを差し出され、そのあまりの美味しさに感動し、伊勢神宮へ献上するように命じられたのが、国崎に伝わる熨斗鰒(のしあわび)のルーツとされています。また、贈答品の印に使われる「熨斗」はこの熨斗鰒が起源です。
鎧崎の地名は、倭姫命が国崎に立ち寄った際、この地で鎧を脱いだことから命名され、現在は鎧崎灯台が立っていますが、この沖は「伊勢の神埼、国崎の鎧、波切大王なけりゃよい」と漁師に恐れられた海の難所です。
海士潜女(あまかづきめ)神社は、海女の祖とされる「おべん」を祀っており、年初めの漁が始まる前に海女たちは必ずこの海士潜女神社に参拝し、一年の無事と大漁を祈願しています。
また、毎年7月1日には伊勢神宮より楽師と舞姫が国崎に来て、海士潜女神社で国崎の祖先と海へ感謝する舞楽奉納が行われています。
午後に訪れた奥志摩金刀比羅山のふもとの御座に鎮座する爪切不動尊は、弘法大師空海が大地の自然石に自らの爪で刻んだ不動明王像を祀っており、御座住民の不動尊に対する信仰は厚く、病みて不動、癒えて不動、祝って不動、旅立つに不動、帰って不動と一身の幸福、一家の繁栄など、すべて爪切不動明王の霊力に託していたと言われています。
ご本尊の爪切不動尊をお祀りする本堂の裏には30数個の梵字石がありますが、これは一石一仏の信仰の拠り所で元は村の辻に祀られていたもので、室町時代の宗教的に貴重なものとされています。
しかし、私が感銘を受けたのはこの不動堂もさることながら、御座の波止場の石仏地蔵尊です。地蔵尊は地上界の諸人救済の大慈悲を持ってこの世に出現された御仏で、全国いたるところにありますが、この御座の石仏のように海中に鎮座される地蔵尊は珍しく、干潮には全姿を現しますが、満潮時にはわずかに頭角を出すだけです。
潮の干満と人間の生活には深い関係があり、人は大自然の大きな呼吸の中に生きています。そして干満による潮水は常に流動する清浄水なので、その潮水で体を洗浄するこの御仏は、病を治し、健康祈願にご利益があるのは納得がいきます。
この石仏地蔵尊は「我海水の浸すところに在りて諸人の為に常に代りて苦患(くげん)を洗浄せん。必ず高所に移すなかれ」と村人に告げたとされ、その御詠歌も
かぎりなき 世のもろ人を救はんと 御座の浦わに おはす みほとけ
と詠まれています。
この石仏は潮仏とも呼ばれていますが、一度上げ潮が来ると一切が洗い流され、特に一棟の堂宇もなければ、俗気の漂う装飾もなく、海と空との間にしかも地蔵尊と判明しない一個の岩だけという存在が私にはとても微笑ましくも有り難く感じました。
最後に訪れた伊雑宮は、お田植え祭で有名ですが、伊勢神宮の別宮で志摩国の一宮でもあり、地元では「磯部のお宮さん」と呼ばれています。
それは、古来より「海女」や「漁師」が、この伊雑みやのお守りである「磯守」を身につけて漁に赴き、海からの厄災除けのご加護を授かっていたことに由来します。
今回は海女小屋の「さとうみ庵」で獲れたてのサザエやスルメイカを焼いてもらい、ひじきの釜飯を食べながら海女さんの元気なパワーを頂戴しましたが、鳥羽や志摩を巡ると、古くから自然を敬い、海とともに生活してきた人々の信仰心の厚さを改めて感じました。
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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って日本遺産を旅しています。
平成芭蕉は「検索すればわかる情報」より「五感を揺さぶる情報」を提供します。旅とは日常から離れ、いつもと違う風、光、臭いなど五感を通じて自分を見つめ直す機会です。そしていつもと違う人に会い、いつもと違う食事をとることで、考え方や感じ方が変わります。すなわち、いい旅をすると人も変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。