松尾芭蕉が敬慕した西行法師終焉の地「弘川寺」
私が敬愛する松尾芭蕉の旅の師匠である西行は、花と月をこよなく愛した平安末期の歌人で、中でも桜に心を惹かれ、230もの桜を題材にした和歌を残しています。そして自然や心情をありのまま歌に詠み、
「願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月の頃」
(できれば春、桜の花の下で死にたいものだ、ちょうど釈迦が入滅した2月の満月のころが望ましい)
と遺言めいた歌を生前に残し、歌の通り1190年2月16日、河内の国の弘川寺で西方の浄土へと旅立たれました。
百人一首でも知られる西行は、文武両道で美形、しかし23歳の若さで出家し、吉野で庵を結び、29歳のころに陸奥へと旅立ちます。西行は出家したものの、特定の寺院に属したり、階級を求めることはせず、各地で山里に小さな庵を作って、仏堂の修行に励みました。
そして京都の鞍馬山や嵯峨野、東山、伊勢の二見浦、高野山や四国など、日本全国を放浪しながら、多くの歌を詠み、晩年に訪れたのが弘川寺でした。
「なにごとのおわしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる」
という歌が印象に残っていますが、西行は、当時の座主であった空寂上人を慕って、弘川寺の裏山に庵を結び、ここを自分の死に場所と決めて73歳で最後の眠りについたのです。
弘川寺には西行法師の墓や桜山、紅葉谷、本坊庭園などがあり、桜や紅葉の穴場スポットです。
護摩堂の横にある「隅屋桜(すやざくら)」が有名ですが、「桜山」も山桜やソメイヨシノ、八重桜、枝垂れ桜、霞桜などを見ることができる桜の名所で、本坊庭園付近は色鮮やかで美しい紅葉を見ることができる紅葉の隠れ名所でもあります。
似雲(じうん)法師が発見した「西行墳」と西行の歌碑
しかし、私は参拝客の少ない午前中、ひっそりとした弘川寺を参拝し、本堂の横にある石段を登って何となくかたじけなさを感じる西行堂を訪ねてきました。
西行の坐像をまつる西行堂をさらに奥へと進んだ丘に、西行の墓(西行墳)がありますが、西行の墓を見つけたのは、江戸時代の僧で歌人の似雲(じうん)法師です。
似雲法師が西行の墳墓を発見した後に、弘川寺は西行の史跡として整備され、今日、私たちが西行ゆかりの地として訪れることができるのは、似雲法師のおかげです。
西行墳のそばには、自分が死んだら桜を供えてほしいという意味の歌碑
「ほとけには 桜の花を たてまつれ 我が後の世を 人とぶらはば」
が建っていますが、西行の願い通り、歌碑のそばには似雲法師が三本桜を植えています。
西行堂は似雲法師によって建てられ、西行の墓のそばには生涯を西行の顕彰に尽くした似雲法師の墓(似雲墳)もあります。
境内にある「西行記念館」は、西行法師八百年遠忌の1989年、長くその遺徳を顕彰するために開設され、文武両道に優れ、仏の道と歌の世界に生きた西行法師の貴重な資料が数多く展示されています。
また、境内には69歳の西行が東国再訪の際に詠んだ歌
「年たけて 又越ゆへしと おもひきや いのちなりけり さやの中山」
の歌碑が建っていますが、さやの中山とは遠江国(静岡県)の「小夜の中山峠」のことで、徒歩で越えるには険しく、鈴鹿峠と箱根峠に並ぶ難所でした。西行は各地で感傷的な歌を残しながらも、屈強な精神で道を歩んでおり、年老いても旅を続ける西行の強さを物語っている歌です。
人はどんな生き方をしていてもやがて年老いて、ひとりで死ななければならない存在です。西行法師は花や月を愛し、限りある命を深く見つめ、飾らない気持ちで孤独や哀しみ、生きることの苦しみを歌い続けましたが、この年老いても旅を続けた生き様が松尾芭蕉にも影響を与えたのだと思います。
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