北海道の縄文文化と北海道唯一の国宝土偶「カックウ」
北海道では、本州の縄文人が水稲栽培を取り入れて弥生時代に移行しても、気候的条件から水田を作らずに縄文時代の生活様式を継承し、古墳時代の終わり頃まで、続縄文時代と呼ばれる狩猟・採集・漁労の時代が続きました。
これは北海道が寒かったために、水田稲作がうまくいかなかったということより、秋に「サケ」という自然の「収穫」があったことが大きな理由と思います。
北海道と言えば、唯一の国宝である「中空土偶」が有名ですが、これは北海道旧南茅部町(現・函館市)の著保内野(ちょぼないの)遺跡で出土した土偶です。中空土偶は名前のとおり、精巧な中空の土偶で、今から3500年前の縄文後期後半の墓から出土し、高さ41.5㎝、重さ1.7㎏で中空の土偶としては最大の大きさです。
写実的で精巧に作られており、耳やアゴの部分に黒色の漆で着色されているなど、装飾性も高く、文様構成にも優れています。縄文時代の信仰や祭祀の実態および精神文化を明らかにし、土偶造形の到達点を示すきわめて重要な優品で、出土した南茅部(みなみかやべ)の地名と中空土偶であることにちなんで茅空(カックウ)の愛称で親しまれています。
「カックウ」が出土した著保内野遺跡は私有地にあり、実物は近くに建てられた「函館市縄文文化交流センター」に展示されています。函館市縄文文化交流センターは、道の駅機能を併せもつ博物館で、国宝の「中空土偶」だけでなく、板状土偶や大船遺跡・垣ノ島遺跡などの南茅部縄文遺跡群を中心に、函館市の縄文遺跡から出土した土器や石器などの遺物を数多く展示しています。
北東北の国宝土偶「合掌土偶」と有名な「遮光器土偶」
一方、北東北の国宝「合掌土偶」は、青森県の是川遺跡に近い風張(かざはり)遺跡で発見され、両足、腕が割れていましたが、アスファルトで修復されていました。顔料が残り、往時は全身が赤く着色されていたとみられ、大切に扱われていたものと考えられます。
座った状態で両腕を膝の上に置き、正面で手を合わせ、指を組んだポーズを取っていることから「合掌土偶」と称されていますが、土偶は、一般的に捨て場や遺構外からの出土例が多いのですが、この土偶は住居の片隅に置かれた様な状態で出土しています。
この「合掌土偶」は是川遺跡の一王寺から出土した「日本最古の土面」などの出土品と一緒に是川遺跡に隣接する「是川縄文館」に展示されています。
しかし、私は国宝の「合掌土偶」より風張1遺跡から出土した「頬杖(ほおづえ)土偶」が好きで、この土偶の前に立つと私は縄文人の思慮深さと威厳を感じ、脚が揃っていれば国宝扱いを受けたと思います。
縄文時代は平等社会と言われていますが、私は三内丸山遺跡を訪ねた際、長期間の定住生活を物語る数多くの土坑墓と約20基の環状配石墓を見て、縄文人にも階級があったのではないかと思いました。
私が考える縄文社会の階層化の根拠は、出土している祭祀に使われたであろう土偶の存在にあります。三内丸山遺跡からは体が板のように扁平に造られた大型の板状土偶も出土しましたが、頭部と胴体が離れて見つかっていることから呪術的な目的でわざと壊されたと考えられています。
これらの非実用的工芸の発達は、環状配石墓に埋葬されるような祭祀主宰者がいたことを示唆します。すなわち、縄文社会には自然界との儀礼的関係を司る神職のような階層が存在したと推察されるのです。
また伊勢堂岱(どうたい)縄文館に展示されている板状土偶もユニークですが、伊勢堂岱遺跡には直径30m以上の環状列石が4基あります。
環状列石の下には死者を埋葬した土坑墓があり、共同墓地であるとともに、祭祀・儀礼の空間でもあったと考えられ、周辺からは、板状土偶のほかにも動物形土製品、鐸形土製品、岩版類、三脚石器、石剣類など祭祀・儀礼の道具が多数出土しているのです。
また、土偶ではありませんが岩手県の御所野縄文博物館に展示されている一戸町の蒔前遺跡(まくまえいせき)から出土した『鼻曲り土面』も興味深い遺品です。
しかし、一般的に土偶の中で一番有名なものは明治20(1887)年に亀ヶ岡石器時代遺跡の沢根地区から出土した「しゃこちゃん」の愛称で親しまれる遮光器土偶かと思われます。
目にあたる部分が雪国で着用される遮光器(スノーゴーグル)のような形をしていることからこの名称がつけられました。
亀ヶ岡石器時代遺跡のしゃこちゃん広場には立派な遮光器土偶の石像碑が建っていますが、最寄りのJR五能線木造(きづくり)駅の壁面はこの遮光器土偶をモデルとしたさらに巨大なシャコちゃんがいます。
木造駅のシャコちゃんは平成3(1991)年に設置されましたが、誕生から約30年が経った2021年4月、老朽化した駅舎の補修工事とともに、目がLEDライトに取り替えられました。そして、従来は赤1色でしたが、今は何と7色に次々と変化するシステムになりました。
通常は駅に列車が到着するときに縄文人からのメッセージのごとく点滅しますが、今回は列車の到着に関係なく、駅長さんにお願いして特別に点灯していただきました。
しかし、日中の遮光器からの光は私には認識しずらいものでした。縄文人の土偶に対する想いも同様に現代の私たちには認識することが難しいのかもしれません。
日本の縄文文化「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産!
「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されたことを記念して、私はみちのくを旅した芭蕉の研究本『松尾芭蕉の旅に学ぶ』と共に『縄文人からのメッセージ』というタイトルで縄文文化を語り、平成芭蕉の『令和の旅指南』シリーズ(Kindle電子本)として出版しました。人生100歳時代を楽しく旅するために縄文人の精神世界に触れていただければ幸いです。
また、日本人の心に灯をつける『日本遺産の教科書』、長生きして人生を楽しむための指南書『人生は旅行が9割』、感情の老化を防ぐ私の旅日記である『生まれ変わりの一人旅』とともにご一読下さい。
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③『松尾芭蕉の旅に学ぶ 令和の旅指南Ⅲ』:芭蕉に学ぶテーマ旅 「奥の深い細道」の旅
④『生まれ変わりの一人旅 令和の旅指南Ⅳ』: 感動を味わう一人旅のススメ
⑤『日本遺産の教科書 令和の旅指南』: 日本人の心に灯をつける 日本遺産ストーリーの旅
私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って日本遺産を旅しています。
平成芭蕉は「検索すればわかる情報」より「五感を揺さぶる情報」を提供します。旅とは日常から離れ、いつもと違う風、光、臭いなど五感を通じて自分を見つめ直す機会です。そしていつもと違う人に会い、いつもと違う食事をとることで、考え方や感じ方が変わります。すなわち、いい旅をすると人も変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。
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