台湾の「民主先生」李登輝元総統と八田與一
親日家で「岩里政男」という日本人名をもつ台湾の元総統、李登輝(リートンホイ)氏が97歳で亡くなられました。李氏と言えば、2002年、私の母校である慶應義塾大学の学園祭実行委員会が李元総統を招聘するも、ビザが発給されず、三田際での講演会が幻となったことが思い出されます。
もし、この幻の講演会が実現しておれば、李氏は「台湾で最も尊敬されている日本人」八田與一(はったよいち)について紹介される予定でした。
八田與一といっても、日本ではピンとくる人は少ないかもしれなませんが、台湾では教科書に載るほど知名度が高く尊敬されている日本人です。台湾にダムと灌漑用水路を建設し、不毛の土地を穀倉地帯に変えた人で、台湾にとって恩人であるだけでなく、日本人が誇りとすべき人物です。
台湾は2011年の東日本大震災に際して200億円以上の義援金を送ってくれた世界屈指の親日国で、日本との歴史的繋がりも深い国です。
貴重な台湾の遺産「烏山頭水庫(ダム)と嘉南大用水路」
そこで台湾とは何かを追求した稀有な哲人政治家で、「民主先生」とも呼ばれた李元総統を偲んで、私から八田與一と彼が造った「烏山頭水庫(ダム)および嘉南大用水路」を紹介します。八田與一は1910年に台湾総督府土木課の技師として水利事業を担当し、56歳で亡くなるまで台湾に住み、台湾のために尽くした日本人で、今日でも多くの台湾人から敬愛されています。
八田技師は不毛の地に烏山頭水庫(ダム)と1万6000キロに及ぶ網の目のような嘉南大用水路を建設。さらに「三年輪作法」という農法を自ら考案して、かつては干ばつと水害で穀物の収穫が全くできなかった台湾南部の嘉南の地を台湾最大の穀倉地帯に変えたのです。
また、彼は大工事であった烏山頭ダム建設の現場監督をするだけでなく、工事に携わる人が安心してよい仕事ができるように住宅区を設け、工事関係の施設はもちろん、家族全員が住める宿舎や共同浴場、学校、病院、娯楽施設まで作りました。
このように台湾発展のために貢献した八田與一ですが、1942年にフィリピンへの赴任を命じられ、彼の乗船したフィリピンに向かう船が米軍による攻撃を受けた際に亡くなりました。
現在、かつて八田技師や工事の主要関係者が住んでいた場所に「八田與一記念公園」があります。この公園は台湾経済に貢献した八田技師個人だけでなく、八田夫婦の深い愛情の記念という意味も込められています。すなわち、八田技師の妻は夫が亡くなった後、夫の残した遺産である烏山頭ダムの放水口に身を投げて後を追ったからです。
この八田與一夫妻に対する台湾人の感謝と哀惜の念がいかに強いかを物語る逸話は、亡くなられた李元総統が紹介されています。
すなわち、烏山頭ダムの畔に建てた八田與一の銅像は、戦時中の金属供出令から逃れるため、倉庫に隠され、また、日本敗戦後、大陸から渡ってきた国民党は日本統治時代の銅像や碑文を破壊して回りましたが、そうした災難からも守られました。そして現在、八田の命日にあたる5月8日には、その銅像の前で毎年慰霊祭が行なわれ、日台の絆の象徴となっているのです。
台湾にはこの烏山頭ダムの他に、台湾一のパワースポットとして有名な太魯閣(タロコ)国家公園など、世界遺産に登録されるべき貴重な文化遺産や自然遺産が数多くあります。しかし、台湾は国連で国として承認されていないために、これらの価値ある遺産がユネスコの世界遺産としては1カ所も登録されていません。
私は世界遺産の「人類が共有すべき普遍的価値を持つ財産は国の枠組みを越えて保護する」という精神からすると、この対応はおかしいと考えます。「台湾の運命は自分たち台湾人が決める」と台湾の民主化に奮闘された李元総統のことを思えば、この機会に台湾の文化、歴史、自然を正しく知る上でも台湾の世界遺産登録を応援し、日本と台湾の絆を強めたいと感じました。
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平成芭蕉は「検索すればわかる情報」より「五感を揺さぶる情報」を提供します。旅とは日常から離れ、いつもと違う風、光、臭いなど五感を通じて自分を見つめ直す機会です。そしていつもと違う人に会い、いつもと違う食事をとることで、考え方や感じ方が変わります。すなわち、いい旅をすると人も変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。