写真家テラウチマサト氏の写真展とファン・ゴッホの芸術
テラウチ マサト『ほんとうのことは誰も知らない』
先週の5月9日、銀座のリコーイメージングスクエア銀座8階A.W.Pギャラリーゾーンで写真家のテラウチ マサト氏にお会いして、氏のフィンセント・ファン・ゴッホに対する熱い思いを語っていただきました。
テラウチ マサト氏は、フィンセント・ファン・ゴッホの足跡を長年にわたり研究され、今回、カメラを持ったゴッホとして「ほんとうのことは誰も知らない」というテーマで写真展を開催されました。
今回はテラウチ氏がファン・ゴッホの足跡を巡り、季節を変えて撮影されたオランダのニューネン、パリのモンマルトル、フランス南部のアルル、サン・レミ・ド・プロバンス、そしてファン・ゴッホ終焉の地オーヴェル・シュル・オワーズでの写真が紹介されていました。
フィンセント・ファン・ゴッホの生き方こそが芸術
特筆すべきは、これまで撮影の許可が得られなかった、ゴッホが自殺するまでの70日間を過ごしたオーヴェル・シュル・オワーズにあるラヴー亭屋根裏部屋の写真とその鍵も展示されていることです。
ファン・ゴッホは日本の浮世絵に魅せられ、日本人のようにものを見続けていたと言われていますが、テラウチ氏はカメラを持った日本の写真家として、ファン・ゴッホの人生を晩年から遡って探求してこられたのです。
私はかねてよりテラウチ マサト氏の写真もさることながら、その着眼点とコメントに魅かれていましたが、実際にお話する機会を得て、なるほどと納得しました。
氏は「フィンセント・ファン・ゴッホの人生や生き方そのものが芸術」と語っておられましたが、私も全く同感です。
平成芭蕉の絵画鑑賞は芭蕉さんの俳句鑑賞に通ず
テラウチ氏は若い頃、画家を目指されていたそうですが、私も絵を勉強していた時があって、そのため絵の見方や着眼点も一般の人とは異なります。
例えばゴッホの「ひまわり」を鑑賞する際、私はひまわりの花そのものより、そのひまわりが育った土地を連想するのです。つまり、花を見たら、その美しい花を育んだ土について思いを馳せるのです。
これは松尾芭蕉の有名な俳句「古池や蛙飛び込む水の音」を鑑賞する際、水の音を聞いた芭蕉さんが、「父の故郷である柘植福地城下の古池を思い出したのではないか」と推測して楽しむ感覚なのです。
実際、この句は蛙が古池に飛び込んだのを芭蕉さんが目撃して詠んだものではなく、蛙が飛び込んだであろう水の音を聞いた芭蕉さんが、脳裏にイメージした古池に思いを馳せている句なのです。
テラウチ氏はゴッホの家で「何も見えないが全てを感じられる」とおっしゃっておられましたが、私も松尾芭蕉の生家に行くとの芭蕉さんの生き様を感じることができるのです。
テラウチ氏の写真集とクレラー・ミュラー美術館のファン・ゴッホ作品
今回のテラウチ氏の作品鑑賞は写真集『ほんとうのことは誰も知らない』を買っていただくとして、ファン・ゴッホの作品については、私がオランダのクレラー・ミュラー美術館を見学した際の画像をご紹介します。
クレラー・ミュラー美術館は、オランダのデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内のオッテルロー村にあり、ヨーロッパ最大規模の彫刻庭園であり、また世界で2番目のファン・ゴッホ・コレクションで知られています。
ファン・ゴッホは今でこそ世界的に有名な画家ですが、生前は無名の存在で、弟のテオに経済的な援助を受けていました。
20世紀に入ってもごく少数の人にしか知られていませんでしたが、その中の1人、美術評論家で教師でもあったH.Pブレマーは、クレラー・ミュラーにファン・ゴッホは「現代美術の偉大な精神」であると購入を助言したことから、この美術館が生まれました。
このファン・ゴッホ・ギャラリーでは、ベルギーのボリナージュにおける初期の時代からオーヴェルでの若すぎる死まで、ファン・ゴッホの画家としての人生と作品の物語をたどることができます。
代表的な『アルルの跳ね橋』や『夜のカフェテラス』などの主要作品を現地ガイドの大橋さんに解説していただきましたが、フィンセント・ファン・ゴッホは、作品だけでなく、彼の波乱万丈の人生そのものが芸術であることが実感できました。
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