海洋を含んだ初の自然遺産「知床半島」
2019年、私と同じ三重県出身の冒険家で北海道の命名者でもある松浦武四郎の人生を描いた『永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~』がドラマ化されました。「この男がいなかったならば、北海道は生まれなかった」という幕末の大探検家・松浦武四郎の人生が紹介されていましたが、彼は6度にわたる蝦夷地(北海道)の探査を行い、アイヌの人々の協力を得ながら、蝦夷地の詳細な記録を残しています。
その数ある著作の中でも『知床日誌』には、アイヌ語の地名、伝説に関する詳細な記述のほか、知床の生態系についても記された部分があり、興味深い内容となっています。
「知床」の名前の由来は、アイヌ語の「突き出した地」、「地の果て」を意味する「シリ・エトク」とされ、地形や環境が人を寄せ付けなかったので、太古からの自然が残り、絶滅危惧種など希少な動植物が棲息していることから、知床半島は世界自然遺産に登録されました。
長さ約70km、基部の横幅約25kmの細長い知床半島の中央を高さ1,200~1,600mの知床連山が貫いており、この山々を挟んでオホーツク海に面したウトロ側と、根室海峡に面した羅臼側では地形や気象条件が大きく異なっています。この自然環境の違いから、ウトロ側は農業と観光業、羅臼側は漁業が主産業となっています。
この北海道北東部に突き出した知床半島の自然遺産は、斜里(しゃり)町と羅臼(らうす)町にまたがる大地とその沿岸の海(7万1100ha)を含み、これは海洋が入った初の自然遺産で、現在4つある日本の自然遺産(屋久島、白神山地、知床、小笠原)の中でも最大の広さを誇ります。
太古からの手つかずの自然には、ヒグマやエゾシカなど野生動物が多く生息し、神様が手をついた跡と伝えられる原生林に囲まれた知床五湖や、知床最大のオシンコシンの滝、「乙女の涙」の愛称があるフレペの滝、そして温泉が楽しめるカムイワッカの滝など、知床八景と呼ばれる景観は神秘的な美しさです。
特に印象に残るのはフレペの滝で、この滝は川にはつながっておらず、知床連山に降った雨や雪による水が地下に溜まり、それらの水が断崖の割れ目から流れ落ちているのです。そのため、控えめに流れる優雅な姿から、「乙女の涙」と命名されました。
知床は世界的に絶滅が危惧されているシマフクロウやオジロワシ、そしてシレトコスミレのような希少動植物が存在し、また天然記念物のオオワシの越冬地としても知られていますが、ヒグマやエゾシカ、アザラシのような大型の哺乳類が高密度で生息していることも、知床の自然遺産が評価される所以です。
海から陸へとつながる食物連鎖の生態系が残る
しかし、知床の魅力は希少動物を含む生物の多様性だけでなく、海と山の独特な食物連鎖の存在にあります。北緯44度に位置する知床は、地球上の最も低い緯度で海水が結氷する季節海氷域にあたっており、アムール川からオホーツク海に淡水が流れ込んで形成される塩分の薄い層がシベリアからの寒気によって結氷し、流氷として知床沿岸に届きます。そしてこの豊富な栄養塩を含む流氷が春になると融解して大量の植物プランクトンを供給し、そしてその植物プランクトンの豊富な海が動物プランクトン、さらに小魚、貝類を繁殖させ、それらを餌とするアザラシなどの海獣や海鳥を育てます。
この海から始まる食物連鎖は、アザラシなどの海生哺乳類はもちろん、河川を遡上する海で育ったサケやマスを捕食するヒグマやキタキツネなどの山に住む陸生哺乳類の餌となり、そして、山の生き物が息絶えると、それが土に帰って山を豊かにするといった、海と陸が育む複合生態系となっています。
このように、海と山の生き物が循環することで、価値を高め合う生態系こそが、知床の自然の特質なのです。そのため、知床は国が保護管理を行う自然公園でもあり、この生態系を守るための「知床エコツーリズム推進協議会」が設置され、科学的な側面からも自然が管理された上で「エコツーリズム」が活用されています。
現在、知床半島の斜里町ウトロにあるオロンコ岩近くには、知床を探検した松浦武四郎顕彰碑が立っていますが、そこに記された彼の歌にもある通り、この公園は秘境ですが、ゆっくり滞在すれば心休まる場所です。
「山にふし 海に浮寝のうき旅も 慣れれば慣れて 心やすけれ」 松浦武四郎
祝!日本の縄文文化「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産登録
「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されることを記念して、私はみちのくを旅した芭蕉の研究本『松尾芭蕉の旅に学ぶ』と共に『縄文人からのメッセージ』というタイトルで縄文文化を語り、平成芭蕉の『令和の旅指南』シリーズ(Kindle電子本)として出版しました。人生100歳時代を楽しく旅するために縄文人の精神世界に触れていただければ幸いです。日本人の心に灯をつける『日本遺産の教科書』、長生きして人生を楽しむための指南書『人生は旅行が9割』とともにご一読下さい。
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③『縄文人からのメッセージ 令和の旅指南Ⅱ』: 縄文人の精神世界に触れる 日本遺産と世界遺産の旅
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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って世界遺産を旅しています
「平成芭蕉の世界遺産」はその世界遺産についての単なる解説ではなく、私が実際に現地に赴いてその土地に生きる人たちと交流した際に感じた感動の記録です。
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