月刊『武道』と世界柔道選手権大会
私は令和7年度より公益財団法人日本武道館の「心技体 人を育てる総合誌」の月刊『武道』の巻頭で「日本遺産を往く~原風景を求めて」と題した記事を連載させていただくことになりました。この記事の中では104ある日本遺産の中でも「武道の可能性を探る」上で参考になるストーリーを紹介していく予定です。

日本武道館発行 月刊『武道』
しかし、私が「武道」に関心を抱くきっかけは、2007年9月13日から16日まで、ブラジルのリオデジャネイロのアリーナ・オリンピカで開催された、第25回世界柔道選手権大会観戦ツアーに ナビゲーター(添乗員兼案内役)として同行した体験です。この大会にはスペシャルコメンテーターとして藤原紀香さんも来ていました。
リオデジャネイロと言えば、2016年には南米大陸では初となる第31回夏季オリンピックと第15回夏季パラリンピックの開催都市となり、サンバのカーニバルが有名ですが、「カリオカ」たちには「リオを見て生き永らえよ」という言葉もあって、このカーニバルを見ていると生きることの素晴らしさを感じさせてくれます。「サンパウロの人は仕事で忙しく、リオの人は遊びで忙しい」と言われますが、この陽気で楽天的な人たちに囲まれているとカーニバルを見ずとも生きる活力が湧いてきます。

リオデジャネイロのキリスト像
観光では1931年のブラジル独立100周年を記念して建てられた、市街を見下ろす標高710mのコルコバードの丘のキリスト像や「砂糖のパン」という意味の「ポン・デ・アスーカル」頂上からの眺めは見逃せません。
リオデジャネイロで開催された第25回世界柔道選手権大会
2007年の世界柔道選手権の9月16日最終日の試合では、女子48㎏以下級で、浦沢直樹さんの漫画「YAWARA!」の主人公「猪熊柔」の愛称「ヤワラちゃん」と呼ばれていた谷亮子さん、女子無差別級では塚田真希さん、そして男子無差別級の棟田康幸さんが金メダルを獲得するなど、日本の選手の活躍は感動的で、見ごたえのある試合の連続でした。

2007年世界柔道選手権応援うちわ
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、無観客試合となった東京2020オリンピックにおいても、日本の柔道は史上最多となる9個の金メダルを含む12個のメダルを獲得し、テレビで観戦していてもそれなりの感動はありました。
しかし、柔道に関してはやはり、試合会場に足を運び、選手と同じ空間で応援することをお勧めします。やはり、ライブで観戦すると選手の息遣いが感じられ、投げられた時の畳の音など迫力が違います。また、事前に現地の柔道を取り巻く文化や参加選手のプロフィールなどを知っておけば、新たな気付きも増えて感動も大きくなるのです。
例えばブラジルには柔道に似たブラジリアン柔術と呼ばれる格闘技がありますが、これは柔道の創始者であり、日本のオリンピック初参加に尽力した嘉納治五郎氏の「講道館」で学んだ、前田光世氏が伝えたものと言われています。すなわち、前田光世氏から熱心に柔術を学んだブラジル人カーロス・グレイシー氏が、弟のエリオ・グレイシー氏と共にリオデジャネイロに道場を開いたことから、ブラジルに柔術が広がったのです。
この柔術は、本来は平安時代に端を発する日本古来の武道で、主に護身を目的とし、徒手武道として受け継がれてきました。柔とは「柔らかい」もしくは「譲る」ことを意味し、術とは「わざ」を意味するので、柔術は「柔らかさ」と「譲る」技術です。
一方、柔道は明治期に嘉納治五郎氏が柔術各流派の良いところを吸収し、「柔よく剛を制す」の理念のもと、柔術で身体を鍛え上げるだけでなく、精神的な鍛練も重視する「道」として発展を遂げました。
そして今日の柔道は、嘉納治五郎氏が築き上げた講道館流を主流としていますが、講道館とは「道を講ずる館」と言う意味であり、「道」とは、人の生活を成り立たせている本質を言うのです。
「柔の道」と旅行業における「観光道」
「柔の道は一日にしてならずぢゃ!」は漫画「YAWARA!」 に登場する猪熊滋悟郎氏の著書名ですが、同様に「ローマは一日にしてならず」とは、「すべての道はローマに通ず」の「道」が、一朝一夕でできたのではないことを言っているのです。
私の本業である旅行業においても「道」は重要で、私は「道」こそ人間の創造した最も素晴らしい発明の1つだと思います。なぜなら、「道」は数千年間を通じて人間とともに発展し、人間を助けてその生活の領域を拡大させ、他の民族の生活領域と連絡する役割を果たしてきたからです。
2007年の世界柔道選手権大会観戦ツアーにおいても、観戦終了後、リオデジャネイロ市内の「道」を利用して市内を観光しましたが、そもそも「観光」という言葉は、中国の儒教の経典『易経』にある『觀國之光利用賓于王』〔国の光を観(み)る もって王に賓(ひん)たるに利(よろ)し〕からきています。
これは、その土地の自然や文化、風俗、暮らしなどの「光」をよく「観」て、その「光」が統治する国の王に賓客(ブレイン)として重用されるのが好ましいという意味です。よって、今日われわれ庶民が観光の旅に出かける際にも、「観光」本来の意味に鑑み、訪問地での滞在時間を十分にとって、その土地の自然や伝統・文化に触れ、何か新しい気付きや感動を体験すべきなのです。
北村薫作『空飛ぶ馬』という小説には「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉がありますが、私はこの「小説」を「旅」に置き換えると、旅行も同様かと思います。
「人はなぜ旅に出るのか」と問われれば、私は「人生がただ一度であることに対する抗議」と答えたいと思います。すなわち、人生は一度限りの一方通行の「道」ですから、無限の可能性の中から1つしか選べず、生まれた土地で一生を過ごすことも1つの選択ですが、やはり別の土地で生きる自分の姿を思い描いてみたいと旅に出るのです。
旅に出る行為は人生がただ一度しかないことへの挑戦
よって、私にとって旅に出る行為は、単なる仕事ではなく、人生がただ一度しかないことへの挑戦であり、異郷の地でその土地の人と交流し、見聞・観察しながら新たな気付きと感動を見出す創作活動で、この活動から新たな旅の「道」を模索しているのです。
そこで、柔道観戦ツアーにおいては、開催地の伝統・文化に触れるだけでなく、柔道選手が発する「光」も感じて欲しいと思います。その「光」は選手が柔道に賭けてきた「道」を示しており、観戦する私たちに「共感」を呼び起こしてくれます。言い換えれば、自分の生きてきた「道」と選手の柔道に対する「生き様」とが織りなす新しい「物語」が創造されるのです。
私は令和の時代は、ゆとりがあって「ときめき」を感じることのできる「共感」の旅をすべきだと考えます。それは「旅行+知恵=人生のときめき」をテーマとした「心のときめき」を感じる旅の「道」です。
私はリオの世界柔道選手権大会を観戦した際、選手が勝敗に関係なく、試合終了後に背筋を伸ばし、胸を張りつつ礼をする姿に感銘を受け、同時に「ワクワク感」を覚えました。これこそ「心のときめき」を感じる旅で、良き「想い出」として記憶に残るだけでなく、この体験は私を豊かな人生に導いてくれました。

2007年世界柔道選手権入場チケット
すなわち、旅行から人生が変わり、旅行の質が人生を決めるという、旅の道が柔の道に繋がったのです。「人より長く旅した人間は、最後に誰にも負けない力を手にする」という旅の道は柔の道にも通じると感じました。
*この記事は公益財団法人全日本柔道連盟の機関紙『まいんど』にも取り上げられました。「柔の道」と「旅の道」
平成芭蕉メッセージ ~「旅の質」が人生を変える
私にとって旅することは一度限りの人生を最大限に楽しむための創造活動です。そして私は、人生を楽しむために必要な「心のときめき」は、「知恵を伴う旅」を通じて得られると考えています。
そこでこの度、私はその知恵を伴う日本遺産や世界遺産の旅を紹介しつつ、平成芭蕉独自の旅の楽しみ方とテーマ旅行に関する企画アイデアノート、さらに著者が松尾芭蕉の旅から学んだ旅行術について紹介した『平成芭蕉の旅指南 人生が変わるオススメの旅 旅の質が人生を決める』と題した本を出版しました。このブログと合わせてご一読いただければ幸です。

私は平成芭蕉、自分の足と自分の五感を駆使して旅しています。
平成芭蕉の旅語録
平成芭蕉は「検索すればわかる情報」より「五感を揺さぶる情報」を提供します。旅とは日常から離れ、いつもと違う風、光、臭いなど五感を通じて自分を見つめ直す機会です。そしていつもと違う人に会い、いつもと違う食事をとることで、考え方や感じ方が変わります。すなわち、いい旅をすると人も変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。
「令和の旅」へ挑む平成芭蕉
★関連記事:平成芭蕉の旅のアドバイス「旅して幸せになる~令和の旅」
*「平成芭蕉の旅物語」サイトマップ参照
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令和の「平成芭蕉」
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平成芭蕉の旅語録~月刊『武道』と世界柔道選手権大会観戦ツアーの想い出
投稿日:
月刊『武道』と世界柔道選手権大会
私は令和7年度より公益財団法人日本武道館の「心技体 人を育てる総合誌」の月刊『武道』の巻頭で「日本遺産を往く~原風景を求めて」と題した記事を連載させていただくことになりました。この記事の中では104ある日本遺産の中でも「武道の可能性を探る」上で参考になるストーリーを紹介していく予定です。
日本武道館発行 月刊『武道』
しかし、私が「武道」に関心を抱くきっかけは、2007年9月13日から16日まで、ブラジルのリオデジャネイロのアリーナ・オリンピカで開催された、第25回世界柔道選手権大会観戦ツアーに ナビゲーター(添乗員兼案内役)として同行した体験です。この大会にはスペシャルコメンテーターとして藤原紀香さんも来ていました。
リオデジャネイロと言えば、2016年には南米大陸では初となる第31回夏季オリンピックと第15回夏季パラリンピックの開催都市となり、サンバのカーニバルが有名ですが、「カリオカ」たちには「リオを見て生き永らえよ」という言葉もあって、このカーニバルを見ていると生きることの素晴らしさを感じさせてくれます。「サンパウロの人は仕事で忙しく、リオの人は遊びで忙しい」と言われますが、この陽気で楽天的な人たちに囲まれているとカーニバルを見ずとも生きる活力が湧いてきます。
リオデジャネイロのキリスト像
観光では1931年のブラジル独立100周年を記念して建てられた、市街を見下ろす標高710mのコルコバードの丘のキリスト像や「砂糖のパン」という意味の「ポン・デ・アスーカル」頂上からの眺めは見逃せません。
リオデジャネイロで開催された第25回世界柔道選手権大会
2007年の世界柔道選手権の9月16日最終日の試合では、女子48㎏以下級で、浦沢直樹さんの漫画「YAWARA!」の主人公「猪熊柔」の愛称「ヤワラちゃん」と呼ばれていた谷亮子さん、女子無差別級では塚田真希さん、そして男子無差別級の棟田康幸さんが金メダルを獲得するなど、日本の選手の活躍は感動的で、見ごたえのある試合の連続でした。
2007年世界柔道選手権応援うちわ
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、無観客試合となった東京2020オリンピックにおいても、日本の柔道は史上最多となる9個の金メダルを含む12個のメダルを獲得し、テレビで観戦していてもそれなりの感動はありました。
しかし、柔道に関してはやはり、試合会場に足を運び、選手と同じ空間で応援することをお勧めします。やはり、ライブで観戦すると選手の息遣いが感じられ、投げられた時の畳の音など迫力が違います。また、事前に現地の柔道を取り巻く文化や参加選手のプロフィールなどを知っておけば、新たな気付きも増えて感動も大きくなるのです。
例えばブラジルには柔道に似たブラジリアン柔術と呼ばれる格闘技がありますが、これは柔道の創始者であり、日本のオリンピック初参加に尽力した嘉納治五郎氏の「講道館」で学んだ、前田光世氏が伝えたものと言われています。すなわち、前田光世氏から熱心に柔術を学んだブラジル人カーロス・グレイシー氏が、弟のエリオ・グレイシー氏と共にリオデジャネイロに道場を開いたことから、ブラジルに柔術が広がったのです。
この柔術は、本来は平安時代に端を発する日本古来の武道で、主に護身を目的とし、徒手武道として受け継がれてきました。柔とは「柔らかい」もしくは「譲る」ことを意味し、術とは「わざ」を意味するので、柔術は「柔らかさ」と「譲る」技術です。
一方、柔道は明治期に嘉納治五郎氏が柔術各流派の良いところを吸収し、「柔よく剛を制す」の理念のもと、柔術で身体を鍛え上げるだけでなく、精神的な鍛練も重視する「道」として発展を遂げました。
そして今日の柔道は、嘉納治五郎氏が築き上げた講道館流を主流としていますが、講道館とは「道を講ずる館」と言う意味であり、「道」とは、人の生活を成り立たせている本質を言うのです。
「柔の道」と旅行業における「観光道」
「柔の道は一日にしてならずぢゃ!」は漫画「YAWARA!」 に登場する猪熊滋悟郎氏の著書名ですが、同様に「ローマは一日にしてならず」とは、「すべての道はローマに通ず」の「道」が、一朝一夕でできたのではないことを言っているのです。
私の本業である旅行業においても「道」は重要で、私は「道」こそ人間の創造した最も素晴らしい発明の1つだと思います。なぜなら、「道」は数千年間を通じて人間とともに発展し、人間を助けてその生活の領域を拡大させ、他の民族の生活領域と連絡する役割を果たしてきたからです。
2007年の世界柔道選手権大会観戦ツアーにおいても、観戦終了後、リオデジャネイロ市内の「道」を利用して市内を観光しましたが、そもそも「観光」という言葉は、中国の儒教の経典『易経』にある『觀國之光利用賓于王』〔国の光を観(み)る もって王に賓(ひん)たるに利(よろ)し〕からきています。
これは、その土地の自然や文化、風俗、暮らしなどの「光」をよく「観」て、その「光」が統治する国の王に賓客(ブレイン)として重用されるのが好ましいという意味です。よって、今日われわれ庶民が観光の旅に出かける際にも、「観光」本来の意味に鑑み、訪問地での滞在時間を十分にとって、その土地の自然や伝統・文化に触れ、何か新しい気付きや感動を体験すべきなのです。
北村薫作『空飛ぶ馬』という小説には「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉がありますが、私はこの「小説」を「旅」に置き換えると、旅行も同様かと思います。
「人はなぜ旅に出るのか」と問われれば、私は「人生がただ一度であることに対する抗議」と答えたいと思います。すなわち、人生は一度限りの一方通行の「道」ですから、無限の可能性の中から1つしか選べず、生まれた土地で一生を過ごすことも1つの選択ですが、やはり別の土地で生きる自分の姿を思い描いてみたいと旅に出るのです。
旅に出る行為は人生がただ一度しかないことへの挑戦
よって、私にとって旅に出る行為は、単なる仕事ではなく、人生がただ一度しかないことへの挑戦であり、異郷の地でその土地の人と交流し、見聞・観察しながら新たな気付きと感動を見出す創作活動で、この活動から新たな旅の「道」を模索しているのです。
そこで、柔道観戦ツアーにおいては、開催地の伝統・文化に触れるだけでなく、柔道選手が発する「光」も感じて欲しいと思います。その「光」は選手が柔道に賭けてきた「道」を示しており、観戦する私たちに「共感」を呼び起こしてくれます。言い換えれば、自分の生きてきた「道」と選手の柔道に対する「生き様」とが織りなす新しい「物語」が創造されるのです。
私は令和の時代は、ゆとりがあって「ときめき」を感じることのできる「共感」の旅をすべきだと考えます。それは「旅行+知恵=人生のときめき」をテーマとした「心のときめき」を感じる旅の「道」です。
私はリオの世界柔道選手権大会を観戦した際、選手が勝敗に関係なく、試合終了後に背筋を伸ばし、胸を張りつつ礼をする姿に感銘を受け、同時に「ワクワク感」を覚えました。これこそ「心のときめき」を感じる旅で、良き「想い出」として記憶に残るだけでなく、この体験は私を豊かな人生に導いてくれました。
2007年世界柔道選手権入場チケット
すなわち、旅行から人生が変わり、旅行の質が人生を決めるという、旅の道が柔の道に繋がったのです。「人より長く旅した人間は、最後に誰にも負けない力を手にする」という旅の道は柔の道にも通じると感じました。
*この記事は公益財団法人全日本柔道連盟の機関紙『まいんど』にも取り上げられました。「柔の道」と「旅の道」
平成芭蕉メッセージ ~「旅の質」が人生を変える
私にとって旅することは一度限りの人生を最大限に楽しむための創造活動です。そして私は、人生を楽しむために必要な「心のときめき」は、「知恵を伴う旅」を通じて得られると考えています。
そこでこの度、私はその知恵を伴う日本遺産や世界遺産の旅を紹介しつつ、平成芭蕉独自の旅の楽しみ方とテーマ旅行に関する企画アイデアノート、さらに著者が松尾芭蕉の旅から学んだ旅行術について紹介した『平成芭蕉の旅指南 人生が変わるオススメの旅 旅の質が人生を決める』と題した本を出版しました。このブログと合わせてご一読いただければ幸です。
私は平成芭蕉、自分の足と自分の五感を駆使して旅しています。
平成芭蕉の旅語録
平成芭蕉は「検索すればわかる情報」より「五感を揺さぶる情報」を提供します。旅とは日常から離れ、いつもと違う風、光、臭いなど五感を通じて自分を見つめ直す機会です。そしていつもと違う人に会い、いつもと違う食事をとることで、考え方や感じ方が変わります。すなわち、いい旅をすると人も変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。
「令和の旅」へ挑む平成芭蕉
★関連記事:平成芭蕉の旅のアドバイス「旅して幸せになる~令和の旅」
*「平成芭蕉の旅物語」サイトマップ参照
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令和の「平成芭蕉」
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