国産ブドウで醸造する和文化の結晶
2020年11月、私は6月21日にリニューアルオープンした山梨県の釈迦堂遺跡見学を含む「星降る中部高地の縄文世界」をテーマとした日本遺産ツアーを企画し、縄文王国山梨を巡ってきましたが、この山梨県の扇状地は果樹栽培にも適した場所でした。
そのため、山梨県ではこの「星降る中部高地の縄文世界-数千年を遡る黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅」と先に認定された「葡萄畑が織りなす風景ー山梨県峡東地域ー」に加え、新たに山梨県甲州市が茨木県牛久市とともに申請した「日本ワイン140年史 ~国産ブドウで醸造する和文化の結晶~」も令和2年度の日本遺産に認定されました。
そこで、私は12月11日、甲州市における「甲州ワイン日本遺産ガイド研修」に先立ち、甲州市の主たる構成文化財を視察しました。
まずはぶどう畑を見渡すことのできる丘の上にある勝沼醸造直営レストラン「風」でローストビーフの昼食をとりましたが、この建物は天井が高く長崎の大浦天主堂をイメージしており、異国情緒の味わえる場所でした。
周囲のぶどう畑のぶどう棚は、かつての竹棚から針金棚に変化していますが、急傾斜地のぶどう畑を支える石積みや畑の地割などはほとんど変わっていないようです。
私は、甲州市勝沼町に「甲州街道を歩く旅」でもたびたび訪ねており、勝沼宿は甲州街道随一の宿場町であったこと、日川から取水されるセギと呼ばれる水路とブドウ畑、養蚕神信仰のことなどは解説してきましたが、日本ワインの歴史については触れていませんでした。
今回、私は「日本ワイン」発祥の地とされる甲州市近代産業遺産の「宮公園(旧宮崎葡萄酒醸造場)」を訪ね、1927年(昭和2年)のワイン造りを記録した貴重な『宮光園映像資料』フィルムと古写真を見学し、ワイン産業の先覚者である宮崎光太郎氏の先見の明に感銘を受けました。
宮光園とはその宮崎光太郎が自宅で創業した宮崎葡萄酒醸造所と観光葡萄園の総称で、「宮崎光太郎のブドウ園」なので宮光園と呼ばれています。
宮崎光太郎氏は当時の日本人の口に合わなかったワインにハチミツ等をブレンドして飲みやすいように工夫しただけでなく、ブドウ園に来てもらった顧客に、ブドウやワインの飲食に加えて工場も案内する、といった観光ブドウ園というものを始めた観光事業の先駆者でもあります。
すなわち自社のワイン造りを観光と組み合わせたワイン産業として発展させるという先進的な考えに私は共感を覚えるのです。
現在、公開されているのは正門(南門)から入った宮崎光太郎氏の自宅主屋と庭だけですが、主屋の前には、富士山のような三角形の石があり、隣にはワイン樽に乗った石の大黒天像がありました。
「大黒葡萄酒」というブランド名でワインを売っていたので、大黒様をイメージキャラクタとしていたのでしょう。
道を隔てて、宮光園の一部だったメルシャンのワインギャラリー、ワイン資料館、見本ブドウ園がありましたが、私はかねてより参拝したかった「ボルドゥ神社」に参拝しました。
この神社はかつてこの地のぶどうに病気が蔓延した際、フランスの農薬であるボルドー液のおかげでぶどう栽培が続けられるようになったので建立されたと言われています。
今回はレンタカーではなく、地元のタクシー運転手さんにご案内いただいたので、日本最古の甲州ブドウの木である「甲龍」も見学することができました。現代の甲州ブドウは接ぎ木で育てられることが多いのですが、この「甲龍」のように接ぎ木でない純粋な甲州ブドウはとても珍しい貴重な木だと思いました。
最後に訪れた「ぶどう寺」こと柏尾山大善寺では、甲州街道を歩くツアーの際には新選組の近藤勇や信玄公の「理慶尼」について話すのですが、今後は甲州ブドウ発祥に関わる行基菩薩の「大善寺伝説」や「雨宮勘解由(かげゆ)伝説」についても触れたいと思います。
甲州ぶどうの発祥には、2つの伝説があり、「大善寺伝説」では、718年、行基菩薩が日川渓谷の大きな岩の上に静座をしていた折、右手にぶどう、左手に法印を持った薬師如来が現れ、法薬であるぶどうの作り方を村人に伝えたと言われています。そして行基菩薩が片手にぶどうを持ち、もう一方の手で大木から結印した薬師如来と日光・月光菩薩を彫って安置し、大善寺が開かれたとされています。
「雨宮勘解由伝説」では1186年、勝沼の上岩崎に住む雨宮勘解由が山ぶどうの変生種を見つけ、それを改良・普及し、源頼朝に献上してお褒めの言葉を賜ったと言われています。
通常、お寺でワインを飲むイメージはありませんが、このぶどう寺では山梨県文化財の庭園を望みながら、芳香な国産ブドウで醸造されたグラスワインが飲めるのです。これぞ日本ワインの和文化の結晶かと思います。
日本ワイン140年史 ~国産ブドウで醸造する和文化の結晶~
所在自治体〔山梨県:甲州市 茨木県:牛久市〕
国産ブドウを原料とし、日本国内で醸造される「日本ワイン」。
その140年にわたる歴史において重要な地位を占めるのが山梨県甲州市と茨城県牛久市です。
甲州市は地元のブドウ農家との共存繁栄をはかり、広大なブドウ畑と新旧 30 ものワイナリーを誕生させるに至りました。
牛久市の「牛久シャトー」は、ブドウ栽培から醸造までの一貫した工程を構築し、大規模な醸造体制を確立しました。
明治の文明開化期、国営では果たせなかったワイン醸造を、それぞれの地域の特性を生かして民間の力で成し遂げたのです。
切磋琢磨して日本のワイン文化の広まりに貢献した二つのまちに息づく歴史を知れば、ワインの味わいもより深くなります。
一般社団法人日本遺産普及協会と日本遺産検定
私は2023年、「日本遺産ストーリー」を通じて地域の魅力を国内外に発信する目的で、有志とともに一般社団法人日本遺産普及協会を立ち上げました。そして、協会では日本遺産ブランドの普及と日本各地の文化や伝統の普及・活用に資する目的で日本遺産検定を実施しています。
本検定は3級・2級・1級に分かれ、まずは3級(ベーシック)が開始されていますので、「日本遺産」をはじめ「日本文化」「日本史」「地域振興」に関心のある方は、下記の『日本遺産検定3級公式テキスト』(黒田尚嗣編著・一般社団法人日本遺産普及協会監修)を参考に受験していただければ幸です。お問合せ先・お申し込み先:一般社団法人日本遺産普及協会
平成芭蕉メッセージ ~「旅の質」が人生を変える
「小説が書かれ読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議」という言葉がありますが、私にとって旅することは、一度限りの人生を最大限に楽しむための創造活動なのです。そして私は、人生を楽しむために必要な「心のときめき」は、「知恵を伴う旅」を通じて得られると考えています。
そこでこの度、私はその知恵を伴う日本遺産や世界遺産の旅を紹介しつつ、平成芭蕉独自の旅の楽しみ方とテーマ旅行に関する企画アイデアノート、さらに著者が松尾芭蕉の旅から学んだ旅行術について紹介した『平成芭蕉の旅指南 人生が変わるオススメの旅 旅の質が人生を決める』と題した本を出版しました。このブログと合わせてご一読いただければ幸です。
私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って日本遺産を旅しています。
この「平成芭蕉の日本遺産」は、単なる日本遺産登録地の紹介や旅情報の提供ではなく、「平成芭蕉」を自称する私が、実際に現地を訪れて、地元の人と交流し、私が感じたことや認定されたストーリー対する私自身の所見を述べた記録です。