令和の「平成芭蕉」

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平成芭蕉のテーマ旅行

平成芭蕉のテーマ旅行〜「塔」の旅:仏塔(パゴダ)とタワー

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東洋の塔は仏舎利を祀る仏塔(パゴダ)

「塔」と言えば、フェノロサ「凍れる音楽」で知られる薬師寺の東塔を連想しますが、私には佐々木信綱の次の歌が印象に残っています。

「ゆく秋の 大和の国の 薬師寺の 塔の上なる ひとひらの雲」

美しい薬師寺の東塔を詠んだ佐々木信綱の歌ですが、日本の秋を象徴的に歌い上げており、大和の国から薬師寺、そして塔へと徐々に視点がズームアップしています。この塔は一見、六重塔に見えますが、間に挟まるのは裳階(もこし)と呼ばれる装飾的な屋根で、実際には三重塔です。法隆寺の五重塔は、斜線の角度の美しさで人の心を揺さぶりますが、薬師寺の東塔はこの屋根と裳階が奏でるリズムの美しさで私たちを感動させてくれます。

「凍れる音楽」薬師寺東塔

「凍れる音楽」薬師寺東塔

仏教では仏像が造られる以前は、仏舎利を祀る「塔」を礼拝の対象としていました。その塔をインドではストゥーパ(卒塔婆)と呼び、日本でもそれを真似て高く聳える建物を建立して「仏塔(パゴダ)」と称したのです。

実際、日本に仏教が伝来した頃の古い寺院には、必ず塔が建てられ、伽藍配置は塔が中心でした。
釈尊を礼拝するだけであれば、低い建物でも事足りますが、敢えて高い仏塔を建てたのは、釈尊の偉大さを表現する意味があったのでしょう。
低ければ見下げることになり、高ければ自然に見上げて、佐々木信綱の歌にあるように天を仰ぎ見て感動する心境に繋がります。

薬師寺建立の頃は新羅仏教の影響で、金堂を軸として両腕のごとく東西に塔を建てる双塔式伽藍になっており、長年、古建築に携わってこられた宮大工の西岡常一(つねかず)棟梁は、「薬師寺伽藍は塔が二つあって初めてバランスが取れる」と言っておられました。

今日では兵火によって消失した西塔も復興されており、境内で1300年の年輪を経て建つ東塔に対峙する西塔の美しい姿を仰ぐ見れば、釈迦の永眠の象徴としての塔を実感することができます。特に塔の頂にある飛天と雲をかたどった美しい「水煙」はまさに「凍れる音楽」です。

西洋におけるシンボル的な塔(タワー)

しかし、東洋の仏教圏だけでなく西洋のキリスト教圏においても、主要都市にはシンボル的な塔(タワー)が建てられており、ピサ大聖堂の鐘楼「ピサの斜塔」はその代表です。

塔と言えば「ピサの斜塔」

塔と言えば「ピサの斜塔」

私は初めて訪れたヨーロッパの街では、その最も高い丘や塔に上ります。
高所に立てば、眼下に広がる迷路のような旧市街の輪郭がつかめるだけでなく、郊外の美しい景色、さらには地平線のかなたも眺めることができて爽快な気分になるのです。
特に塔は地上の路地裏では目印となり、近づいて仰ぎ見るとその土地の人々の「より高く」を目指した心意気のようなものが感じられ、登るのは大変ですが、登ったあとには最高の解放感が味わえます。

すなわち塔は地上の虫の目と高所からの鳥の目とをつなぎ、街の印象をより一層鮮明にしてくれるので、街を訪れた実感が湧いてきて、その結果、旅の印象に残るのです。

そこで「人はなぜ塔を建てたのか」を考えた時、ヨーロッパ文化の基礎をなすギリシャには塔はありません。
しかし、ピサの斜塔もそうですが、イタリアの都市には塔が多く、シエナ、フィレンツェ、ボローニャなど、中世からルネサンスの時代に栄えた都市には高く美しい塔が多く残っています。

また、今も建築が継続しているガウディが設計したバルセロナのサグラダ・ファミリア聖堂のように、これでもかといった感じで尖塔が立ち並ぶ教会もあります。

尖塔が立ち並ぶサグラダ・ファミリア聖堂

尖塔が立ち並ぶサグラダ・ファミリア聖堂

東洋の仏塔(パゴダ)と西洋の塔(タワー)の違い

『塔の思想』を書いたアレクサンダーによれば、人間には自分を超えようとする強い衝動があり、その衝動のせいで「より高く」をめざして塔は建てられる、と説明しています。確かに西洋の塔を見上げると、「より高く、あくまでも高く」という強い意志が伝わってきて、高い空へ突き刺さるようにそびえる尖塔は感動的でもあります。

一方、梅原猛氏は『塔』の中で、アレクサンサーの説に疑問を投げかけ、東洋の塔は釈迦の骨を収める墳墓としての仏塔であり、高所を目指す意思はなく、「より高く」を求める西洋の塔(タワー)と違って、仏塔(パゴダ)はそれで完結し、安定していると主張されています。

また、仏教、キリスト教に限らず、イスラム寺院のモスクにも塔が備わっています。例えばイスラム建築の最高峰と呼ばれるインドのタージ・マハル廟の4隅には優雅な尖塔がそびえ立っています。

タージ・マハル廟

イスラム建築の最高峰「タージ・マハル」

私は世界各地の「塔をテーマ」とした旅から、洋の東西を問わず、「塔」には人間の争いの心を抑え、和ませる力があるように感じました。すなわち「塔」は私の旅においては心の風景として記憶に残っています。
そこで旅先に塔があれば、ぜひ塔に登り、周囲を見渡した時のあの解き放たれたような心地良さを味わっていただきたいと思います。

<具体的な旅先>

薬師寺東塔…薬師寺で1300年前の創建以来唯一現存している建物で、平成21年より解体修理が行われており、令和2年の春に修理が完了し、落慶法要が行われる予定です。

ピサの斜塔…世界遺産「ピサのドゥオモ広場」を構成する観光スポットで、高さは地上55.86m、階段は296段あり、頂上からは「ピサの街並み」と「奇跡の広場」を眺めることができます。

*平成芭蕉のテーマ旅行「石の旅」は旅行読売2020年2月号に掲載されました

旅行読売 こんな旅がしたい「塔の旅」

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日本の縄文文化「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産!

「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されることを記念して、私はこのたび『縄文人からのメッセージ』というタイトルで令和の旅を語り、Amazonの電子本として出版しました。人生100歳時代を楽しく旅するために縄文人の精神世界に触れていただければ幸いです。日本人の心に灯をつける『日本遺産の教科書』、長生きして人生を楽しむための指南書『人生は旅行が9割』とともにご一読下さい。

★平成芭蕉ブックス
 ①『日本遺産の教科書 令和の旅指南』: 日本人の心に灯をつける 日本遺産ストーリーの旅
 ②『人生は旅行が9割 令和の旅指南Ⅰ』: 長生きして人生を楽しむために 旅行の質が人生を決める
 『縄文人からのメッセージ 令和の旅指南Ⅱ』: 縄文人の精神世界に触れる 日本遺産と世界遺産の旅 

平成芭蕉ブックス『令和の旅指南』

★関連記事:平成芭蕉の旅のアドバイス「旅して幸せになる~令和の旅」

私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って令和時代を旅しています。

平成芭蕉のテーマ旅行

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見るべきものは見て、聞くべき話は聞いた。では旅に飽きたかと問われれば、いえいえ、視点が変わればまた新たな旅が始まるのです。平成芭蕉はまだまだ「こんな旅があった」と目からウロコのテーマ旅行にご案内します。すなわち、「ときめき」を感じる旅から人は変わり、生き方も変わり、人生も変わるのです。

「令和の旅」へ挑む平成芭蕉

*「平成芭蕉の旅物語」サイトマップ参照

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