自然の楽園とアボリジニの文化が融合した複合遺産「カカドゥ国立公園」
縄文人の狩猟生活を連想させるアボリジニ文化
最近は縄文人をテーマとしたツアーに同行する機会が多く、彼らの狩猟採集生活がどのようなものであったかを考えた際、日本とは多少自然環境は異なりますが、私はオーストラリアの狩猟民族アボリジニを連想し、また、映画「クロコダイル・ダンディ」の世界も思い浮かべました。
オーストラリア人俳優のポール・ホーガンを国際スターにのし上げ、世界的にも大ヒットしたアクション映画「クロコダイル・ダンディー」の舞台は、オーストラリアではトップエンドと呼ばれる熱帯地域でした。
そして、このトップエンドと呼ばれるノーザンテリトリー北部に広がる「カカドゥ国立公園」は、非常に興味深い世界複合遺産で、アボリジニ(オーストラリア先住民)文化のアートがいたるところで見られ、また、オーストラリア内でも有数の野生動物や野鳥の楽園でもあります。
豊かな熱帯雨林や湿地帯が広がり、様々な野生動物が生息するだけでなく、重要野鳥生息地に指定されているカカドゥ国立公園ですが、園内を流れる4本の主要な川のうち、3本がアリゲーター・リバー(ワニの川)の名を持っており、川を渡る横断路では映画で見られたようなワニが多く目撃されます。
実際、カカドゥ国立公園では、川をクルーズするのが乾期の楽しいアトラクションで、ジャングルの中を流れるイーストアリゲーターリバーを行くグルヤンビ・クルーズでは、しばしばワニに遭遇します。中でも湿原の中を流れるイエローウォーターは、ワニの大量発生地として知られ、また、周囲の湿原は水鳥たちの宝庫となっています。
カカドゥ国立公園の壁画ロック・アート
しかし、カカドゥ国立公園と言えば、やはり壁画のロックアートです。この地では人類最古の石器とされる斧が発見され、4万年以上前から人が住んでいた形跡があり、壁画はオーストラリアの先住民アボリジニの先祖が書いたものと考えられています。
アボリジニの人々は文字を持たなかったので謎も多いのですが、壁画は彼らがどのような生活を送っていたかを雄弁に物語っています。アボリジニの人々は、生活は自給自足で、主に狩猟をして暮らしていましたが、そのライフスタイルは、現代でも変わりません。
その先住民アボリジニにとって最も聖なる場所とされたのがノーランジーロックとウビルロックでした。ノーランジーロックは古代から先住民アボリジニが秘儀を行った場所で、雨季の激しい雷雨をあやつる雷の精霊ナマルゴン(雷男)やその妻バラギンジなど、アボリジニの神話的な世界が描かれています。
一方、ウビルロックはカカドゥ一帯を望むサンセット鑑賞にお勧めの場所ですが、壁画に描かれた魚やカメなどの絵は、骨格や内臓を透視するように描き込んだ「X線画法(レントゲン技法)」と呼ばれる技法が用いられています。
ウビルロックには、このロックアートを見て回るための約1キロのウォーキング・サーキットが設けられていますが、ロックアートの数の多さ、保存状態の良さはカカドゥ国立公園No.1です。
さすがに狩猟民の絵だけあって、描かれているものには魚やカメなど生き物が多く、生き物の骨格や内臓までがX線技法で細かくリアルに描かれてることから、動物に関しての知識が豊富であったと推察できます。
ウランのために築かれた国立公園
しかし、特筆すべきは、この地が国立公園に指定された真の理由が、アボリジニの文化や歴史との関係ではなく、この地で発見されたウラン採掘を進めるために必要だったことです。
もともとアボリジニには、土地を所有するといった考えはなく、人も動植物も精霊も同じ土地に結びついて生活しており、人はその土地の神話を受け継ぎ、祭祀を行うことによって土地を守っていると考えていました。
そこでオーストラリア政府は、アボリジニの土地権回復とウラン開発を両立させる案として、アボリジニの土地権を認めて国立公園に指定したのですが、公園の地中には大規模なウラン鉱床があり、日豪ウラン資源開発などにより、世界遺産登録と同時期にウランの掘削が始まったのです。そのため、福島の原発事故の際には、カカドゥ国立公園近くに住むアボリジニの人々も衝撃を受けたと言われています。
なぜなら、彼らの地で採掘されたウランが日本に輸出され、それが原発事故での放射能被害の大きさと結びついて考えられたからです。
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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って世界遺産を旅しています
「平成芭蕉の世界遺産」はその世界遺産についての単なる解説ではなく、私が実際に現地に赴いてその土地に生きる人たちと交流した際に感じた感動の記録です。