クロアチアを代表する世界遺産 ドゥブロヴニクの旧市街
クロアチアを訪れる旅行者は首都ザグレブを素通りしてでも最南端のドゥブロヴニクを目指すと言われています。
背後にバルカン半島、対岸に西ヨーロッパを望む要所にあることから、古くから交易がさかんでした。
ヴェネツィアが「アドリア海の女王」と呼ばれましたが、ドゥブロヴニクは「アドリア海の真珠」と称えられ、時代の波に洗われながらも類まれな美しさで私たちをひきつけてくれます。
「アドリア海の真珠」ドゥブロヴニクの隠れた魅力
奇跡の独立共和国ドゥブロヴニク
イギリスの劇作家、バーナード・ショーは「この世の天国を見たければ、ドゥブロブニクに行かれよ」という言葉を残しており、今回の私の最終目的地もこの「アドリア海の真珠」と呼ばれたドゥブロヴニクでした。
ドゥブロヴニクとはスラヴ語の名称で、ラテン語ではラグーサと言い、ナポレオン侵攻まではラグーサ共和国と呼ばれる海洋都市国家でした。
イタリアのヴェネツィアと同様に地中海貿易で栄え、ハンガリー、オスマン・トルコと次々に宗主国が変わる中、巧みな外交術と堅牢な城塞によって都市国家としての自由と自治を守り続けたのです。
紺碧の海と空を背景に、茜色の屋根瓦を載せた象牙色の家々がびっしりと軒を連ねる旧市街には頑強な城壁がぐるりと取り囲んでいます。
ロープウェイでスルジ山に登り、展望台から見た城塞都市ドゥブロヴニクは、真っ青なアドリア海に向かって挑むように張り出し、溢れる陽光に輝いており、まさしく「アドリア海の真珠」という表現がふさわしい街です。
旧市街入り口のピレ門に近いロヴリィエナッツ要塞の砦には、ラテン語で「どんな黄金との引き換えであっても、自由を売り渡してはならない」と書かれています。
軍隊もろくに持たない小国ながら、自由を得るためには敵に黄金を差し出すことさえいとわなかったドゥヴロヴニク市民の強い意志が伝わってきます。
ドゥブロヴニクは福祉国家
北東のプロチェ門から旧市街に入る門の上には、左手に町の模型を抱えたドゥブロヴニクの守護神、聖ブラホの像が迎えてくれます。
そして旧市街のメインストリートであるプラツァ通りは美しい敷石で埋め尽くされていますが、よく見ると中央が盛り上がっていて両脇の溝に雨水が流れていくように造られています。
15世紀にオノフリオの噴水が建設された際には、飲料水の上水だけでなく、下水施設も備わっていました。
これはドゥブロヴニク共和国が市民の衛生面にも配慮していた証であり、中世では多くの町が不衛生な状態でしたが、ドブロヴニクではなんと定期的にゴミの収集サービスも行われていたと言われています。
また、町の発展期に防火目的で木の建造物はすべて石に造り替えられ、岩場の穴藏には穀物倉庫を設けて市民の食糧の確保にも力を注ぎました。
さらに共和国政府は医療サービスにも力を入れて取り組み、市民の健康管理に携わる医師、薬剤師、理髪店などを優遇していました。
なぜ理髪店かと言えば、中世の時代には理髪店はケガの治療や簡単な外科手術も行っていたからです。
また、ロマネスクの回廊が美しいフランシスコ修道院にもクロアチア最古の薬局が今も現役で営業しており、ドブロヴニクは福祉の先駆都市であったと言えるでしょう。
クロアチア紛争の爪痕と市民のリベルタス精神
しかし、私にとって最も印象に残るのは修道院内に残る1991年のクロアチア紛争時の弾痕です。
これはやむを得ずユーゴスラビア連合軍の一員として、ドゥブロヴニクを攻撃せざるを得なかった兵士が、ミサイルの弾薬をこっそり抜いて不発弾とし、その結果、建物を貫通することなく修道院の破壊が免れた跡なのです。
すなわち、ドゥブロヴニクを愛する兵士が、勇気をもって命がけでミサイル弾から火薬を抜き、街を守ろうとしていたのです。
今に生きるドゥブロヴニクの人たちはこのような苦難を乗り越えてこの美しい街並みを取り戻してくれたのです。
つまりドゥブロヴニクにおいてもダルマチアのトロギール市民と同様、「リベルタス(自由)」が大切に守られて今日があるのでしょう。
魅力ある歴史的建造物だけでなく、このドゥブロヴニク市民の「リベルタス」精神も世界遺産にふさわしいと思います。
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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って世界遺産を旅しています
世界遺産とは地球の成り立ちと人類の歴史によって生み出された全人類が共有すべき宝物で、その内容によって①文化遺産②自然遺産③複合遺産に分類されます。この「平成芭蕉の世界遺産」はその世界遺産についての単なる解説ではなく、私が実際に現地に赴いてその土地に生きる人たちと交流した際に感じた感動の記録です。