芭蕉さんの『鹿島詣』と根本寺の仏頂和尚 | 【黒田尚嗣】平成芭蕉の旅物語

令和の「平成芭蕉」

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芭蕉さんの『鹿島詣』と根本寺の仏頂和尚

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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って令和時代を旅しています(サイトマップ参照)

平成芭蕉の令和の旅指南

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仏頂和尚に「禅の心」を学んだ芭蕉さん

故郷で仕えていた藤堂新七郎家の良忠が若くして亡くなり、武家奉公人としての将来に見切りをつけた芭蕉さんは、俳諧師として身を立てるべく、江戸に出て日本橋本舟町の名主であった小沢太郎兵衛のもとで生活を始めました。芭蕉さんは文字が書けて事務的な仕事もできたので、名主の業務を代行する一方で俳諧師として準備も進めていました。

やがて神田上水の浚渫(しゅんせつ)作業を請け負うほどの実務能力を発揮し、俳諧においても江戸を代表する俳人の一人となりました。しかし、延宝8年(1680)、順風満帆の人生を歩んでいた芭蕉さんも、俳句宗匠としての華やかな生活を捨て、日本橋から深川の草庵へ移りました。この草庵は、門人から贈られた芭蕉の株が生い茂ったところから「芭蕉庵」と呼ばれました。

庭に芭蕉が植えられた芭蕉庵『芭蕉翁絵詞伝』

庭に芭蕉が植えられた芭蕉庵『芭蕉翁絵詞伝』

その後、俳号も「桃青」から「芭蕉」に改め、この時期に芭蕉さんと交流があったのが仏頂和尚です。仏頂和尚は鹿島(現在の茨城県鹿嶋市)の根本寺の第二十一世住職で、当時、鹿島神宮と寺領をめぐる争いの裁定を寺社奉行に仰ぐために、深川の臨川庵(現在の臨川寺)に滞在していました。

仏頂和尚ゆかりの臨川寺の碑

臨川庵のあった臨川寺に建つ「芭蕉由緒の碑」

この臨川庵は芭蕉さんの住んでいた芭蕉庵とは目と鼻の先であったため、芭蕉さんは仏頂和尚と出会い、禅の手ほどきを受けました。芭蕉さんの文学に多大な影響を与えた人は西行ですが、芭蕉さんの生き方に影響を与えた人は藤堂良忠仏頂和尚です。
特に日本橋で面倒を見ていた甥の桃印と内縁の妻でもあった寿貞が去り、深川で寂しい生活をしていた芭蕉さんにとっては、仏頂和尚との出会いは光明であり、奈落の底に落ちた挫折から人生を達観した俳聖になる契機となったのです。

深川に移ってからの芭蕉さんは、日本橋時代の世俗的成功を求める姿勢は消えて、「なにものにも執着しない」という禅の境地の生き方になっています。この大きな変化の裏には仏頂和尚の影響があったことは間違いありません。

小名木川に隣接する芭蕉記念館の芭蕉像

また、芭蕉さんは『荘子』の思想を学んでいますが、これは臨済宗の教義と深く関わっており、相当高度な漢文の読解力が必要です。仏頂和尚は臨済宗の僧侶ですから、『荘子』についての理解も深く、芭蕉さんにも分かりやすく指導されたのではないでしょうか。

門人の曽良と宗波を伴って『鹿島詣』

『かしま紀行(鹿島詣)』は、鹿島の根本寺に戻ったその仏頂和尚から、「月を見にいらっしゃい」という誘いの手紙が届いたのがきっかけで、深川での生活を始めてから7年過ぎた貞亨4年(1687年)8月、門人の曾良と僧の宗波を伴い、月見をかねて鹿島の根本寺へ仏頂和尚を訪ねた記録です。

仏頂和尚ゆかりの根本寺

深川からは小名木川を舟で行徳へ、行徳からは、八幡、鎌ヶ谷を通って布佐(我孫子)まで歩き、布佐からは夜舟で鹿島の根本寺に到着しました。そして翌日、鹿島神宮に参拝した後、仏頂和尚を訪ねて月見、帰りは、潮来(茨城県)の古くからの知人で医師の本間自準宅を訪れて一泊しています。

鹿島詣の紀行地図

根本寺は鹿島氏の居城であった鹿島城二の丸跡(現在の鹿島高等学校)の隣地に建っており、寺伝によれば、推古天皇21年(613年)聖徳太子が勅を奉じて創建された勅願寺で、開祖は高麗の恵灌大僧正、始め三論宗、その後は法相宗、天台宗と変わり、南北朝時代の康永年間(1342~1344年)に臨済宗に改められました。

江戸時代に入ると、徳川幕府から寺領100石を給わるも、幕末期に水戸藩の尊王攘夷派らが起こした天狗党の乱で伽藍が全て焼失します。現在の本堂は昭和56年に再建されたものですが、境内には桓武天皇に始まる鹿島総大行事家(常陸平氏)の墓所もあります。

芭蕉さんがこの寺を訪れた様子は「かしま紀行」に記されており、次の2つの句碑が根本寺境内に立っています。

根本寺の芭蕉句碑①

根本寺の芭蕉句碑①

①「月はやし 梢は雨を 持ちながら」
(先ほどまで降っていた雨は上がった。雲間を走る月は早く、木々のこずえはまだ露を抱いている)

根本寺の芭蕉句碑②

根本寺の芭蕉句碑②

②「寺に寝て まこと顔なる 月見哉」
(禅寺の清楚な雰囲気の中で仲秋の名月を鑑賞すると、心はもとより顔までが引き締まった気がする)
*実際には雨が降っており、月見はできませんでしたが、禅寺の雰囲気が月見気分にしたと考えられます

再建された根本寺本堂

再建された根本寺本堂

『かしま紀行(鹿島詣)』は、仏頂和尚を訪ねて月見をすることが主目的でしたが、芭蕉さんは鹿島神宮にも参拝しています。

鹿島神宮と香取神宮

茨城県鹿嶋市に鎮座する鹿島神宮は、千葉県香取市鎮座の香取神宮と並び、東国の大社であり、常陸国の一宮です。祭神は天孫降臨に先立ち、香取神宮の祭神であるフツヌシ神(経津主大神)とともに国土を平定、国譲りを実現させたタケミカヅチ神(武甕槌大神)です。

芭蕉さんも参拝した鹿島神宮

芭蕉さんも参拝した鹿島神宮

社伝によれば、神武東征の際に、この神が神武に霊剣を授けたことから神武即位元年に祀られたとされ、古来、『武の神』として信仰されています。

しかし、『常陸国風土記』では、天之大神(あめのおおかみ)社坂戸(さかと)社沼尾(ぬまお)社の三所を合わせ、総称して香島天之大神(かしまのあめのおおかみ)といい、これにより、名を香島郡と名付けたと記載されており、鹿島神宮の祭神は「香島大神」とあるだけで、タケミカヅチ神の名前は登場しません。

一方、タケミカヅチ神は5~6世紀に、物部氏フツノミタマを奉じて東国へ遠征、東国の鎮守の神として関東平野の東の地、海上に上がる太陽が正面に見える鹿島の地に祀られたという説もあります。そして物部氏が蘇我氏に敗れて没落した後、この地は物部氏に代わって中臣氏が領有し、タケミカヅチ神はその中臣氏によって鹿島神宮に祀られるようになったと言われています。

中臣鎌足を祀る鎌足神社

実際、鹿島神宮の近くには中臣(藤原)鎌足を祀る鎌足神社があり、神武天皇の奉幣使として鹿島に派遣された天種子命(あめのたねこのみこと)は鎌足の先祖と伝わっています。

フツヌシ神(経津主大神)を祀る香取神宮下総(しもうさ)国の一宮で、国家鎮護だけでなく、漁業・舟運の神としても信仰されました。

下総国の一の宮 香取神宮

下総国の一の宮 香取神宮

なぜならこの地域は中世まで「香取の海」と呼ばれる内海が存在し、カトリとは「楫(か)を取る」、すなわち船の航行をつかさどることに由来するとされたからです。

香取神宮の奥宮

社伝によると神武18年の創建とされていますが、東国の東端にある香取の地は、鹿島とともにヤマト政権における東国経営の拠点であり、フツヌシ神やタケミカヅチ神は、蝦夷征討の軍神として当地に祀られたと推察されます。

『鹿島詣』で芭蕉さんは鹿島神宮を参拝した折、次の印象的な句を詠んでいます。

「この松の みば(実生)へせし代や 神の秋」
(鹿島神宮の松の木の下に立つと、この松が実生から目を出した頃の神代の秋の気配が感じられる)
*「実生え」とは種子から発芽して育った樹木のこと。

鹿島神宮の芭蕉句碑

この句は現在の松の木に秘められた永遠性、「永遠の今」の思想をきわめて格調高く、しかも平易な形で象徴化しています。もともと天皇の存在は「天孫降臨」というはじめから、芭蕉さんが「天秤や京江戸かけて千代の春」と詠んだように「権威」を示す象徴的存在ですが、その天皇の「千代の春」を「神の秋」と対比しているのです。

芭蕉さんの鹿島紀行は短い旅ですが、道中で読まれた句にはやはり「風雅の誠」を感じます。

『日本書記』編纂1300年の節目に「東国三社」巡り

2020年は、天武天皇が日本という国の正統性を示すために編纂した日本初の歴史書『日本書紀』完成1300年であり、藤原不比等没後1300年という大きな節目です。

そこで、この機会に芭蕉さんの鹿島詣の足跡をたどりながら、国譲り神話の世界も旅してはいかがでしょうか。平成芭蕉も現在、禅について勉強しており、今年中に「関東のお伊勢参り」とも呼ばれた「東国三社」を巡る予定です。東国三社巡りとは、茨城県鹿嶋市の鹿島神宮、神栖市の息栖神社、千葉県香取市の香取神宮の3社を巡拝することをいいます。

国譲りで活躍したタケミカヅチ神(武甕槌大神)フツヌシ神(経津主大神)が、それぞれ鹿島神宮と香取神宮の御祭神ですが、交渉の際には息栖神社の御祭神である天乃鳥船(あめのとりふね)も同行していたため、これらの3社が非常に結びつきの強い神社として東国三社として信仰されているのです。

東国三社の息栖神社

東国三社巡りは、地理的にもちょっとおもしろい位置にそれぞれの神社が鎮座しています。新型コロナウイルス感染の影響で、社会が変化しつつある今日、芭蕉さんのように禅の心を学んで、神社参拝をすれば多くの気付きが得られると思います。

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by 【平成芭蕉こと黒田尚嗣】

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