冬こそ訪れたい「白川郷・五箇山合掌造り集落」
白川郷・五箇山合掌造り集落の歴史
数ある世界遺産の中でも冬に訪れるべき世界遺産は日本の「白川郷・五箇山のライトアップされた合掌造り集落」ではないでしょうか。
この世界遺産の登録対象は岐阜県白川郷の荻町地区(113棟のうち59棟)、富山県五箇山の相倉地区(20棟)・菅沼地区(9棟)の3集落です。白川郷は現在、岐阜県大野郡白川村と高山市荘川町に、また五箇山は旧平村、上平村、利賀村の3村を併せた地域でしたが、現在はいずれも南砺市に属しており、江戸末期から明治時代に建てられた伝統的な合掌造り家屋が多く残る集落群です。
庄川流域に位置するこの地域は、急傾斜の山と谷に囲まれた日本有数の豪雪地帯で、かつては周辺地域と隔絶されていたため、家屋の建築様式から産業、家族制度に至るまで独自の生活文化が生まれたのです。家屋の構造は3~5階建てで、一般の日本家屋に比べて規模が大きく、合掌造りの茅葺きの大屋根は、積雪を防ぐため45~60度の傾斜をもっています。そして、雪の重みと風の強さに耐えるため、部材の結合には釘などの金属は一切使用せず、縄で縛って固定するなど、厳しい自然環境から家屋を守る工夫が随所に施されています。
この地方は浄土真宗の信仰心が強く、その結束力から「結(ゆい)」と呼ばれる相互扶助組織が存在しますが、これは厳しい自然環境では隣人たちとの協力体制が必要であったために生まれた組織と考えられます。とりわけ茅葺き屋根のメンテナンスには多くの人でが必要で、30~40年に一度行われる葺き替えに際しては、この「結」が必要不可欠で、白川郷では村人100~200人が総出となり、1日で葺き替えを終わらせたと言われています。
なお、白川郷の家屋には煙抜きはありませんが、五箇山の家屋には、屋根に煙抜きが設けられています。煙抜きがあると雪下ろし作業で邪魔になりますが、五箇山の集落では、1年中囲炉裏の火を絶やさないので、煙抜きがないと室内に煙が充満してしまうのです。
また、白川郷では屋根のある側に入口を持つ平入(ひらい)りの家屋が主流ですが、五箇山、特に菅沼地区では切妻側に入口をもつ妻入りの家屋が多く、庇(ひさし)をつけた入母屋風の外見の家屋が一般的です。
江戸時代に白河郷は高山藩領(後に天領)と浄土真宗正連寺領、五箇山は加賀藩領となりましたが、いずれも豪雪地帯で農耕に適した土地が少なく、稲作に不向きな土地柄でした。そのため、この地域では明治期まで、農地の分散をさけるために住民20~30人で暮らす大家族制が守られていました。
そして屋内空間を利用して、塩硝(火薬の原料)、和紙漉(す)き、養蚕が盛んとなり、合掌造りは気象条件と大家族制だけでなく、これらの家内工業発展に合わせて大型化、多層化していったと考えられています。
また「合掌」とは、手のひら(掌)を合せたような傾斜のある茅葺屋根が由来ですが、これは積雪時に少しでも雪が屋根から落ちるように豪雪地帯の風土に合った住居様式で、1935年に白川村を訪れたドイツの建築家ブルーノ・タウトもその独自性を評価しました。
合掌造りの建物と風土に育まれた伝統文化
五箇山の合掌造り集落は1995年に岐阜県の白川郷集落と共に世界遺産に登録されて以来、観光客の人気を集めていますが、庄川の中流域にあって陸の孤島のような秘境です。
しかし、五箇山はこれら合掌造りの建物やその取り巻く自然景観の美しさだけではなく、風土に育まれた土地の民謡「こきりこ節」や伝統的な踊りも魅力です。
特に五箇山独自の「まいまい」は男女交互に手をつなぎ、円を描いて踊るので日本最古のフォークダンスと呼ばれています。
そしてこの伝統文化を育む日本独自の集落と原風景は、山深い奥地にある秘境のために近代化が遅れ、田んぼやあぜ道などの自然とともに残された遺産ですが、その価値は冬こそ輝きを増します。
冬にこそ訪れたい「日本人の心のふるさと」白川郷と五箇山
毎年1月に開催される白川郷ライトアップ(荻町集落)では、静寂に包まれた合掌造り集落が雪化粧とライトアップでまるでおとぎの国のように幻想的に輝きます。
しかし、私は白川郷よりも観光客の少ない五箇山で、しんしんと降り積もる雪の中、白銀の世界にライトアップされた幻想的世界と共に日本最古の民謡「こきりこ節」鑑賞をお勧めします。
南砺市五箇山の菅沼集落では、国指定重要文化財である旧家で昔ながらに囲炉裏の火の温もりを感じながら、五箇山民謡の情緒ある調べに酔いしれることができます。
雪の積もった合掌造りをバックに伝統衣装をまとって踊る姿は、まるで日本昔話の世界で、日本人の魂の原点を感じます。
私はこの世界遺産の価値を正しく知るためには、あえて寒さの厳しい冬に、ライトアップされた合掌造りの建物を見るだけではなく、民謡などの土地の伝統文化にも触れるべきだと思います。
この「白川郷と五箇山合掌造り集落」は、冬にこそ宿泊ツアーで訪れるべき、「日本人の心のふるさと」とも言える世界遺産です。
祝!日本の縄文文化「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産登録
「北海道と北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されたことを記念して、私はみちのくを旅した芭蕉の研究本『松尾芭蕉の旅に学ぶ』と共に『縄文人からのメッセージ』というタイトルで縄文文化を語り、平成芭蕉の『令和の旅指南』シリーズ(Kindle電子本)として出版しました。人生100歳時代を楽しく旅するために縄文人の精神世界に触れていただければ幸いです。
また、日本人の心に灯をつける『日本遺産の教科書』、長生きして人生を楽しむための指南書『人生は旅行が9割』、感情の老化を防ぐ私の旅日記である『生まれ変わりの一人旅』とともにご一読下さい。
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④『生まれ変わりの一人旅 令和の旅指南Ⅳ』: 感動を味わう一人旅のススメ
⑤『日本遺産の教科書 令和の旅指南』: 日本人の心に灯をつける 日本遺産ストーリーの旅
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私は平成芭蕉、自分の足で自分の五感を使って世界遺産を旅しています
世界遺産とは地球の成り立ちと人類の歴史によって生み出された全人類が共有すべき宝物で、その内容によって①文化遺産②自然遺産③複合遺産に分類されます。この「平成芭蕉の世界遺産」はその世界遺産についての単なる解説ではなく、私が実際に現地に赴いてその土地に生きる人たちと交流した際に感じた感動の記録です。