「おそれ」を克服した芭蕉さんの旅
西行法師の「かたじけなさ」と「畏れ(おそれ)」

西行法師終焉の弘川寺「西行堂」
私には「おそれ」という言葉から連想される歌があります。それは西行法師が伊勢神宮で詠んだと伝わる次の歌です。
「なにごとのおわしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる」
西行は花と月をこよなく愛した歌人で、自然や心情をありのまま歌に詠み、
「願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月の頃」
と遺言めいた歌を生前に残し、歌の通り1190年2月16日、河内の国の弘川寺で西方の浄土へ旅立たれました。

西行ゆかりの弘川寺
弘川寺は行基や空海も修行した寺院で、本堂の奥に建つ西行堂にはどことなく神さびた「かたじけなさ」を感じます。
この「かたじけなさ」の実感は「畏れ(おそれ)」であり、伊勢神宮をはじめとする神社仏閣には、このはばかられる雰囲気があって、その言葉では表せない畏怖感によって人は神社や寺に詣でるのです。
「旅」という言葉の語源と「恐れ」
また、今日の旅は観光、癒しなど快適・安楽を求めるレジャーの一部になっていますが、本来「旅」という言葉は、
・食べ物を乞う「給べ(たべ)」
・よその竈で調理された食べ物を食べる「他火」
・他の場所で日を過ごす「他日」
と言った言葉が語源とされ、慣れない土地に対する不安や恐怖を伴うことから、「恐れ」に立ち向かう冒険的要素がありました。
すなわちかつての旅はいつも危険と隣り合わせで、西行に憧れて旅をした芭蕉さんも『奥の細道』の中で自身が旅にあって苦行する修行の句を多く詠んでいます。
冒頭には「古人も多く旅に死せるあり」と記していますが、もともと古人が旅に死んだのは覚悟の上ではありません。
しかし芭蕉さんは俳諧に対する求道精神から決死の覚悟で旅に出たのです。
これは日本人の武士道精神に通じるものがあり、芭蕉さんの「惧れ」に挑む強い行動力と意志こそが、今も私たちを「芭蕉の足跡をたどる旅」に誘うのです。
歴史を振り返るとこれらの「おそれ」を克服し、畏怖しつつも魅了される「おそれ」に挑む旅こそが人を進化させるのではないでしょうか。
芭蕉さんもみちのくを旅して、心の「惧れ(おそれ)」を克服した結果、「不易流行」という俳諧の本質を発見し、「俳聖」になったのです。
<具体的な旅先>
弘川寺… 大阪府河南町にある桜の名所で西行法師終焉の地。境内には西行記念館があり、西行直筆と言われる掛け軸や西行法師ゆかりの品々が展示されている。
伊賀上野… 俳聖松尾芭蕉の生家や松尾家の菩提寺とされる愛染院がある。伊賀鉄道上野市駅前には旅の達人でもあった俳聖松尾芭蕉の銅像が立つ。
*2018年9月号の旅行読売 「こんな旅がしたい」に掲載されました

旅行読売 こんな旅がしたい「おそれの旅」
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